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東京地方裁判所 平成元年(ワ)16274号 判決 1996年2月23日

東京都港区芝五丁目二六番二四号

原告

株式会社東京機械製作所

右代表者代表取締役

芝康平

右訴訟代理人弁護士

増岡章三

對﨑俊一

増岡研介

東京都千代田区丸の内二丁目五番一号

被告

三菱重工業株式会社

右代表者代表取締役

相川賢太郎

右訴訟代理人弁護士

仁科康

藤井正夫

右輔佐人弁理士

坂間暁

石川新

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は、別紙イ号物件目録及び別紙ロ号物件目録記載の各版胴装置を製造、販売又は販売のため展示してはならない。

2  被告は、被告の工場及び倉庫所在の第1項記載の物件及びその半製品並びにその製造に使用する機械器具一切を除却せよ。

3  被告は、原告に対し、金九四億八三〇〇万円及びこれに対する平成元年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

5  仮執行宣言。

二  被告

1  主文同旨。

2  仮執行免脱宣言。

第二  請求原因

一  原告の権利

1  原告は、次の特許権(以下、「本件特許権」といい、その発明を、「本件発明」という。)を有する。

(一) 発明の名称 輪転印刷機における版胴装置

(二) 出願日 昭和五二年四月二七日

(三) 出願公告日 昭和五九年八月二日

(四) 登録日 平成元年八月二四日

(五) 登録番号 第一五一二九二三号

(六) 特許請求の範囲 別紙「特許法第64条の規定による補正の掲載」写しの該当欄記載のとおり

2  本件発明の構成要件

本件発明の構成要件を分説すると、次のとおりである(以下、各々の構成要件を「構成要件A」、「構成要件B」などということがある。)。

A 版胴に装着された版の印刷図柄が、版胴の駆動源であるブランケット胴に転写された後、ブランケット胴と圧胴との間を通る印刷用紙に印刷される輪転印刷機の版胴装置において、

B 前記版胴は、大径部を一方の版胴部とし、大径部に段状に連続した小径部に円周方向及び軸方向に摺動可能に嵌合する円筒を他方の版胴部として、左右のフレーム間に配置されるよう構成し、

C 前記大径部及び小径部の各端部に、各端部に近接したフレームに至る支持軸をそれぞれ設け、

D 大径部側の前記支持軸を前記大径部の端部に近接したフレームに円周方向及び軸方向に移動可能に支承させると共に、更に該フレーム外へと突出させ、

E 前記他方の版胴部をなす円筒には、小径部側の前記支持軸に対し円周方向及び軸方向に移動可能な軸を固着し、該軸を前記小径部の端部に近接したフレームに円周方向及び軸方向に移動可能に支承させると共に、更に該フレーム外へと突出させ、

F 大径部側の前記支持軸と、円筒に固着した前記軸とをそれぞれフレームの外側において、駆動源のブランケット胴の左右軸によって各々駆動されうるよう伝動連結すると共に、それぞれの軸方向調整機構及び円周方向調整機構に連絡させ、

G 前記一方の版胴部と前記他方の版胴部とが、それらの同一駆動源であるブランケット胴に対して、それぞれ個別に回転位相と軸方向の位置を調整されるようにした、

H 輪転印刷機における版胴装置。

3  本件発明の作用効果は次のとおりである。

(一) 版を二列にして設けた版胴装置において、各版を取り付けた状態で、しかも運転中に個々別々に円周方向及び軸方向に微動調整を行うことができ、これにより極めて容易かつ短時間で版の見当合わせを行うことができる。

(二) 版を一列しかもたない版胴の版調整機構は、その調整に際して版胴を動かす方法によるため、版胴上に左右二列の版が取り付けられ左右それぞれの版の独立的な調整が必要な版胴装置には使用できないと考えられていたが、本件発明により右調整機構が利用可能となり、従来において経験の積まれた調整装置をそのまま利用できることになって、コスト的にも有利なうえ、信頼性が高い。

(三) また、この調整機構によれば、版胴上で版を微動調整する型式のものと異なり、版胴に版の調整のための動力伝達機構を配する必要がないし、版の版胴に対する取り付けも調整可能な取付けを考慮する必要がない。そのため版胴の半径方向的には調整筒が存在しないことから径を太く設計しえ、また軸方向的には微動調整機構をフレームの外側に配することができたから、フレームスパンを狭くすることができ、版胴の機械的強度を大幅に高める効果がある。

(四) 版胴自体の構造は、基本的には基胴と円筒の二部材のみから構成しているから、部品点数を最小限としえたうえ、複雑な機械加工を最小限とすることができる。

(五) 基胴の両端の支持軸はフレームに至るよう構成されており、また円筒に固着された軸もフレームに至っているから、版胴全巾に加わる印圧等のラジアル荷重に対しても、各版胴部はたとえば微動調整中であっても、あたかも一体ものの版胴のように安定して両フレームによって支持されることができる。

(六) 本件発明においては、各版胴部の駆動が共通の駆動源であるブランケット胴の左右側からそれぞれ同速度で駆動される構造となっていることから、一方側からのみ駆動される版胴に比較して軸応力の発生が少なく、バランス良く駆動されることとなるうえ、回転駆動自体は同速でなされるものの、各版胴部は軸系としては独立しているから左版胴部又は右版胴部のいずれか一方に生じた機械的擾乱が、質量の大きいブランケット胴側に伝達吸収され易くなり、他方の版胴部に与える影響が小さくなるという相乗的な効果も奏される。

二  被告製品

1  被告は、遅くとも昭和五五年六月ころから、別紙イ号物件目録及び別紙ロ号物件目録記載のとおりの版胴装置(以下、それぞれ「イ号物件」、「ロ号物件」という。)を業として製造し、これを備えた輪転印刷機を製造販売している。

2  イ号物件、ロ号物件の本件発明に対応する構成を分説すると次のとおりである。

a 版胴3ないし3〓に装着された版の印刷図柄が、版胴3ないし3〓の駆動源であるブランケット胴2ないし2〓に転写された後、ブランケット胴2ないし2〓と圧胴1との間を通る印刷用紙に印刷される輪転印刷機の版胴装置である。

b 版胴3ないし3〓は、大径部151を一方の版胴部とし、大径部151に段状に連続した小径部152に円周方向及び軸方向に摺動可能に嵌合する円筒15'を他方の版胴部として、左右のフレーム4と5の間に配置されるよう構成されている。

c 大径部151及び小径部152の各端部に、各端部に近接したフレーム4ないし5に至る支持軸153及び154をそれぞれ設けている。

d 大径部側の支持軸153は、大径部151の端部に近接したフレーム4に円周方向及び軸方向に移動可能に支承されると共に、更に該フレーム4の外へと突出させてある。

e 小径部152の支持軸154は、小径部152の端部に近接したフレーム5の穴に差し入れられてローラーベアリング100に接し、ローラーベアリング100は部材32に接し、部材32はフレーム5に接している。

f 円筒15'の端部に固着されたベアラ(ロ号物件においてはピン受座)にはピン39が固着されている。

ピン39は、小径部152(ロ号物件においては支持軸154)及び軸21の軸芯方向と直交するように穿った小径部の穴154b(ロ号物件においては支持軸の穴154b)及び軸21の穴に貫通している。

支持軸154及び版胴小径部152の芯部に穿った穴154aにそれぞれ間隙を保って挿入された軸21は、前記ピン39に固着されている。軸21の一側は版胴の穴154aに差し入れられていて、版胴の穴154aが接しているニードルベアリング143に接しているとともに、軸21の他の一側はフレーム5の穴を通ってフレーム5の外へ突出していて、フレーム5が接している部材32が固着されている部材53が接しているところのニードルベアリング54に接しており、軸21は円周方向及び軸方向に移動可能である。

g 大径部側の支持軸153は、フレーム4の外側において駆動源であるブランケット胴2ないし2〓との軸901によって駆動されうるよう伝動連結されると共に、軸方向調整機構903及び円周方向調整機構904に連絡し、かつ、円筒15'に固着した軸21は、フレーム5の外側において同じく駆動源であるブランケット胴2ないし2〓の軸902によって駆動されうるよう伝動連結されるとともに、軸方向調整機構903'及び円周方向調整機構904'に連絡させてある。

h 一方の版胴部と他方の版胴部とが、それらの同一駆動源であるブランケット胴2ないし2〓に対して、それぞれ個別に回転位相と軸方向の位置を調整されるようにしてある。

i 輪転印刷機における版胴装置である。

3  イ号物件目録、ロ号物件目録記載の各物件の構成の各5及び7並びに右イ号物件、ロ号物件の構成の分説中、fの、軸21がピン39に固着されている点及びgの円筒15'に固着した軸21の点について更に説明すれば次のとおりである。

(一) イ号物件について

特許発明は技術思想であり、その構成も手段としての技術思想であるから、問題は被告が「固着させる」という技術思想を用いているかどうかである。そして被告は、イ号物件について固着を意図し締まりばめという手段を採用したことを認めているのであり、イ号物件の製造に当たり、被告が円筒と軸とを固着させるという技術思想を用いていることは明らかである。

(二) ロ号物件について

ロ号物件については、原告主張の間隙自体存在しておらず、固着している。このことは以下の間接事実から明らかである。

(1) 被告自身、軸とピンが固着していると明記した実用新案登録出願を行っている。

被告は、昭和五三年一〇月二三日に、自らピンと軸とを固着させた構成のものを実施例とする実用新案登録出願を行っている。右実用新案登録出願の登録請求の範囲及び考案の詳細な説明における実施例などを見れば、イ号物件と同様の機種について、ピンと軸とが固着されたものが開示されており、イ号物件及びこれと差異のないロ号物件においても同様にピンと軸は固着されているとみるべきである。

右の実用新案登録出願において、出願当初は、実施例についてのみ固着を明記していたところ、被告は、昭和五九年一一月一六日、ピンと軸との固着を実用新案登録請求の範囲中に記載した手続補正書を提出している。ロ号物件の開発時期が右の昭和五九年よりも数年前であることは被告自身認めるところであるから、もし被告の主張するように、ピンと軸とが固着された構成に不具合があり、ピンと軸とが固着されない構成を取るロ号物件が開発されたのだとすれば、開発から数年後に被告が実用新案登録請求の範囲においてピンと軸とが固着された構成に限定しているのは矛盾している。現実に固着されていないのに固着されていると明記するはずがない。

(2) 被告の主張は不自然である。

a 被告は当初、仮処分申請事件において、本件発明のように円筒と軸とを固着させる構成には不具合があったため、これを克服するために円筒と軸とを固着させないイ号物件を開発したと説明し、円筒と軸とを固着させない意図でイ号物件を開発した旨述べ、そしてイ号物件にはいくつかの欠陥があったためロ号物件を開発したと説明したが、本件発明の構成要件との関係ではイ号物件とロ号物件は異ならないと説明していた。

b しかし右仮処分申請事件において、原告が本事件における甲第五号証に相当する実用新案公報を提出し、被告がイ号物件の開発により本件発明のような構成の不具合を克服したと主張する時期よりも少なくとも数か月後である昭和五三年一〇月二三日にピンと軸とを固着させた構成の実用新案登録出願を行っていることを疎明するや、イ号物件はピンと軸とを固着させる意図で設計し、締まりばめという典型的な固着方法を用いて嵌合したという初めの説明と全く矛盾する弁解をするようになり、そして実用新案登録出願後にイ号物件を解体検査したところ、軸とピンとが摺動していることが判明したため、ロ号物件は当初から軸とピンとを摺動させるように設計したのであり、この点でイ号物件とロ号物件は異なると説明するようになった。

しかし、右説明自体、要するに固着させようとしたところ摺動してしまったため、いっそのこと更に拡大して摺動させるようにしたということであり、不自然である。しかも、被告自身がこのような説明をする前に仮処分申請事件で提出したイ号物件不具合項目リスト(甲第一二号証の四別紙)には右のような不具合は全く記載されていないし、一体どのようにすればイ号物件の締まりばめとされていた軸とピンとが摺動している旨判明するのかも明らかではない。

なお、被告はイ号物件からロ号物件に製品を変更した時点で、あたかも「固着から非固着への設計思想の転換」というものがあり、その理由として、軸21とピン39とに「強大なラジアル荷重」がかかることが、試験機の解体後に判明し、これらを固着させていると破損、摩耗、変形のおそれがあったかのような主張をしているが、そもそも軸21とピン39とにどのくらいの荷重がかかるかというような点の検討を経ずに、本件のような版胴装置の設計がなされるはずがない。被告は、そのような検討をした上で、少なくとも当初締まりばめという固着方法を採用したというのであるから、固着していることにより破損、摩耗、変形のおそれがあったとの被告の主張は事実と異なることは明らかである。

c 甲第八号証によれば、被告は出願の五か月も前である昭和五三年五月一二日に試運転後の「個別見当調整装置付版胴」を解体検査しており、右の時点で摺動の事実が判明したはずであるから、それにもかかわらず固着の出願をしているというのは、矛盾している。

d また乙第五号証の一及び二によれば、被告は、右解体検査の一年以上の後の昭和五四年六月二八日にも、締まりばめによって固着させていることが設計図上明らかである。

(3) 間隙を設けるとすると、技術上問題がある。

a 被告は、ロ号物件においては、強大なラジアル荷重が駆動調整軸等に悪影響を及ぼすことを憂慮して、軸とピンとを摺動ないし回動させるようになったと主張するが、この主張は、単に「駆動調整軸等に悪影響を及ぼす」という趣旨不明の理由をあげるだけで全く説得力がない。のみならず、仮にピンと軸とが摺動ないし回動しているとすると、版胴は運転中は高速で回転しているわけであるから、ピンは運転中まるでピストンのように激しく動き回っていることになる。そうすると、円筒とピンとは固定されているのであるから、円筒が絶えずピンの動きにつれてふれることにより軸と円筒の中心線がずれ、いわゆる「ねじれ」の関係になり、軸によって回転させられる一方の版胴そのものである円筒が偏心的に回転することになってしまう。これは印刷品質が落ちることを意味し、印刷機にとって致命的である。更にこのようにピンと軸とが高速で摺動しあっていれば、摩滅してしまうか、両者の間に焼付きが発生するかのいずれかであり、被告がピンと軸とを摺動ないし回動させているはずはない。

そもそも軸とピンとにどのくらいの荷重がかかるかという点の検討を経ないで本件のような版胴装置の設計がなされるはずがないのであり、そのような検討をした上で、被告は少なくとも当初締まりばめという固着方法を採用したというのであるから、固着していることにより破損、摩耗、変形する恐れがあったとの被告の主張は信用できない。

また被告の主張によれば、焼付きないし破損を生じるほど強大なラジアル荷重がかかるというのであるから、被告主張のように摺動ないし回動するのであれば、軸とピンとの間に潤滑剤など何らかの工夫がされていなければならないところ、そのようなことはなされていない。被告の単に相互の動きを許容すれば足りるからとの説明は、理由の説明にならないものである。

b 本件の印刷機において、業界で一般に求められる見当合わせの精度は概ね〇・〇五ミリメートル以内であるところ、仮に被告主張のように軸とピンとの間に〇・〇四ミリメートルプラスマイナス〇・〇二ミリメートルの間隙が保たれていてそれが摺動したり回動したりすると仮定すると、軸の直径と版胴の直径は約三倍の差があるから、版の表面では少なくとも約〇・〇六ミリメートル、最大約〇・一八ミリメートルもの見当誤差が出ることになり、これでは見当合わせの精度を維持できない。

(4) 被告の反証は信用できない。

a 被告が証拠として提出する乙第五号証の一については、被告が主張する同書面上の訂正部分について見ると、いつだれが被告が主張するような抹消、記載を行ったのか不明である。しかも被告によれば同号証は再製されたものであるというのであるが、その再製者は不明で、しかもその氏名不詳の再製者は、いつだれが記入したかわからない書込みをそのまま転記したことになっているが、これらは不自然である。

b そもそも乙第五号証の一は原図ではない現場図であるところ、機械製造業界において、原図を訂正することなしに設計を変更することはあり得ない。現場において設計変更の必要が認められた場合にも、必ず設計責任者によって原図の訂正が行われて初めて、現場図も訂正されるのであり、単なる現場図の書込み等に基づいて製品を製造するなど有り得ない。被告は厳格な設計図の管理を現に行っているものである。それらの写しのうちの一枚について、現場の一技能者が勝手に書込みを行い、これに基づいて作業をおこなうというようなことがあれば、各現場は全く混乱に陥るばかりか、社内の品質検査も通らないであろう。

しかるところ、被告が原図のマイクロフィルムからの写しであるとして提出する乙第一一号証を見ても、この図面には被告が主張するような一〇〇分の四ミリメートルプラスマイナス〇・〇二ミリメートルの間隙があることを示す記載はどこにもない。

c また乙第一一号証の図面の最下段には、昭和五六年六月に図面を廃却した旨の記載がある。このことはすでにその時点で原図修正の可能性が非常に小さくなったことを示している。その後に更に設計変更をして間隙を設けたりする必要などなかったからこそ被告はこの図面を廃却したのである。仮に昭和五五年一月に修正がなされたという被告主張を前提としても、右修正時から廃却時まで約一年半もあったのであるから、この間に修正がなされなかったということはこの部分について修正の必要などなかったということにほかならない。

d 被告は、右の昭和五五年一月の修正から昭和六一年一二月一日に原図のマイクロフィルムから新たな現場図を再出図するまでの間のいつだか不明の時期に現場図が何者かの書込みにより修正され、これによって製品が製造されていたと主張している。しかもこの書込みの数値が重要な意味を有するというのである。

しかし、それほどの修正であれば、何ゆえに原図が修正されないのか、またもし原図の廃却後であったならば、なにゆえにマイクロフィルムから原図を再製した上修正しないのか。この疑問に対する被告の弁解は、いわば被告では現場図を原図代わりに使用していたというおよそ考えられない内容である。もしそのように使用するのであれば、最低限だれがいつ修正を行ったか責任の所在を明らかにしていなければならない。そのように無責任な図面を原図代わりに使用するなどありえない。

e 被告は、昭和六一年一二月一日に原図のマイクロフィルムから現場図が再出図されたと説明し、その際それまで用いられていた現場図の記入者、記入時期不明の書込みをこれも何者かがそのまま転記したと説明している。しかも、このように転記した理由は、その何者かが設計責任者に確認を取ったからではなく、被告では転記することになっているからだというのである。被告ではどんな書込みであろうとすべて転記することになっているとしても、これを見て実際に製造する技能者は一体どの記載を信用して製造すればいいのか、仮に転記するとすると、すでに抹消されている記入者、記入時期不明の書込みまで転記した上抹消する必要がどこにあったのか明らかでない。また被告は、乙第五号証の一の「再出図」の印影の左下に記入された「工程奥3/23」という記載について、それ以前の書込みがいつだれによって行われたか不明であったため、昭和六二年三月二三日に機械係岡野保史が機械工程係の奥秀夫に問い合わせたところ、従前からこの書込みに基づいて加工されていると確認を得たので前記のように鉛筆書きを行ったとしているが、被告の説明どおりだとすると、現場図を再出図して書込みを転記してから四か月も経ってのことであり、何ゆえに機械係は四か月も経ってから確認する必要があったのか、その間一体どうしていたのか、機械係はなぜこのような鉛筆書きを、何枚もある現場図のうちのたった一枚について行う必要があったのか、全く明らかでない。

4  イ号物件、ロ号物件の各作用効果は、本件発明の作用効果と全く同様である。

三  本件発明と被告製品の対比

1  イ号物件、ロ号物件の構成が、本件発明の構成要件を充足することは、前記一2と二2を対比すれば、明らかである。

2  本件発明の構成要件E、Fにおける、円筒と軸との「固着」とは個別見当調整に必要な範囲で調整ができる程度に動かなければ十分である。

イ号物件、ロ号物件ともに円筒15'と軸21との連結の状況は、円筒15'の端部に固着されたピン受座にピン39が固着され、軸21はピン39に固着されているのであるから、構成要件E、Fにいう「固着」に相当する。

また、仮にロ号物件について、軸21とピン39との間に被告主張のような間隙があるとしても、構成要件E、Fにいう「固着」に相当する。すなわち、

(一) 実用上問題がない以上、当業者の認識として固着に相当するというべきである。

本件発明は、分割版胴の双方の版胴部を高速運転中にフレームの外から見当調整できるものとする発明なのであるから、円筒と軸の固着も、当然のことながら右目的を達する限度で固着されていれば足りるのである。本件発明において、被告の主張する程度の「摺動」ないし「回動」あるいは「間隙」は、仮にそれが事実だと仮定しても、本件特許権の特許請求の範囲にいう「固着」の解釈にとって何ら意味を持たない。

換言すれば、本件発明の目的からすれば、本件特許請求の範囲中にいう「固着」は、通常の見当調整が支障なく行える程度に動かないよう構成されていれば十分であり、イ号物件、ロ号物件共に、通常の見当調整を行える装置である以上、右の事実そのものが、イ号物件、ロ号物件共にピンと軸とが固着されていることを示している。

なお、甲第一五号証ないし甲第一九号証によれば、「固着」とは、当業者の認識においても、全く動かないという意味ではなく、当該機能、目的との関係での相対的な概念である。

(二) 実際上もこじれて動かなくなるのであるから、固着に相当する。

間隙を保ちながら部分的な接触により固着されている場合はいくらでもある。本件において被告主張のように間隙があったとしても、軸とピンとはこじれてしまって摺動ないし回動などしない。

被告は、版胴への駆動力が間隙を動かなくする因子であることを認めており、また間隙を動かなくする工夫の一つとして、胴仕立てにより、間隙があってもこれを動かさなくする工夫をしているなどと説明しているが、これらは摺動ないし回動させるため、間隙を設けたという被告の主張と矛盾する。

3  本件特許請求の範囲にいう「支承」とは単に「取りはずし可能な状態にて支える」という一般的な意味を有するにすぎないところ、イ号物件目録およびロ号物件目録添付の図面を見れば、軸21がニードルベアリング54、部材53、部材32を介してフレーム5に支えられていることは一見してわかる。被告は軸21がフレーム5ではなく、部材53に支承されていると主張するが、部材53は単なる軸受箱にすぎないのであるから、これに支承されているなどという主張は成り立たない。

4  被告は、イ号物件、ロ号物件は、小径部側の支持軸をフレームに「支承」させている点で本件発明と異なると主張している。しかし、そもそも本件特許請求の範囲中、小径部側の支持軸がフレームに支承されていてはならないとは記載されていないし、またそのように解すべき何らの根拠もない。本件特許請求の範囲には、「前記大径部及び小径部の各端部に、各端部に近接したフレームに至る支持軸をそれぞれ設け」と記載されているだけなのであるから、小径部側の支持軸については、フレームに至ってさえいれば、構成要件を充足するのである。

そして、イ号物件、ロ号物件の小径部側の支持軸154がフレーム5に至っていることは、当事者間に争いのない物件目録添付の図面を見れば明らかである。

5  本件発明については、公告後何回かの補正がなされているが、それについて説明すると、出願公告当時「一端に軸を固着した円筒」とされていた本件発明のクレームの記載が、公告後の第二次補正により「円筒には…軸を固着し」とされた点、出願公告当時「円筒を版胴に対して回転および軸方向に摺動自在に嵌合し」とされていた本件発明のクレームの記載が、公告後の第二次補正により「小径部に円周方向および軸方向に摺動可能に嵌合する円筒」とされた点については、いずれもすべて構成を明瞭にすべく表現を変更しただけであり、クレームの減縮等の特段の意味のある補正ではない。

また、本件発明の出願経過において、昭和六〇年五月二〇日付け特許異議答弁書及び同日付け手続補正書において釈明のためなされた記載として、明細書の発明の詳細な説明中に、「しばしば故障の原因となる開口部が、この発明では版胴の中央片側一か所であるので、異物が嵌合部に進入することによって生じる化学変化や摺動部の動作不良を最小限とすることができる」というものがある。

右については、いわゆる分割版胴のうち、一本の版胴に二個の円筒をかぶせてそれぞれを微調整する構成の乙第三一号証に示されたような従来技術を念頭に置いて、これとの比較のためになされたものである。乙第三一号証の特許公報の第一図のとおり、従来技術においては版胴の中央の両側に二個の円筒が嵌合するため、版胴の中央の両側に二か所の開口部ができることになるのに対し、本件発明においては、円筒が一個であるから、版胴の中央の開口部は当然のことながら片側一か所になる。したがって、右記載は、本件発明のような、版胴に大径部と小径部とを設け、一個の円筒を小径部に嵌合するような構成を、特別な意味での「開口部」なる概念をもって、更に限定する趣旨の記載ではない。客観的に見ても、そのような限定を加える趣旨であると解すべき根拠は、本件発明の出願経過のどこにもない。右の記載は、「しばしば故障の原因となる開口部が、この発明では版胴の中央『片側』一か所であるので」とされており、このことは、前述の原告の主張を裏付ける。また本件発明の特許請求の範囲に、円筒の一端が塞がれているなどと記載されたことは一度もない。

そして、イ号物件、ロ号物件における右の出願経過中で用いられた意味での「開口部」は、一か所である。

なおこの記載についてはなくても不明瞭といえないので、平成元年二月二二日付け意見書に代わる手続補正書において右記載をとりやめた。

6  右のとおり、イ号物件及びロ号物件はそれぞれ本件発明の構成要件を具備し、各作用効果も本件発明のそれと同一であるから、イ号物件、ロ号物件は、本件発明の技術的範囲に属する。

四  原告の損害

1  被告は、昭和五九年八月二日から平成元年一〇月末までの間に、イ号物件又はロ号物件を備えた輪転機を少なくとも六六セット、同じく印刷機(輪転機全体の中の印刷機部分)を少なくとも一四ユニット製造販売した。

2  被告が製造販売した前記六六セットと同じ組み合わせで原告が販売できたはずの本件発明の実施品を含む輪転機の販売価格総額は八三八億一六〇〇万円にのぼる。

輪転機は、大型でありながら極めて高い精度を要求される精密機械であり、その製造には高度の技術と長年にわたるノウハウの蓄積並びに巨額の設備投資が必要である。また、製品が非常に高価であり、市場も限定される。このような理由から、この業界への参入企業は少なく、事実上原告と被告の両社の寡占状態に近い。したがって被告が原告の特許権を侵害することにより、業界をリードしている原告の優れた製品に並ぶ製品を製造販売したことは、即ち原告が販売できたはずの販売先を奪ったに等しい。本件発明は、輪転機全体にかかるものではないが、販売先が輪転機全体を購入する場合において、特許発明にかかる一部のみ他社製品を購入することはありえない。したがって、被告の右輪転機の製造販売により、原告はこれに利益率一〇・八三四パーセントを掛けた九〇億八〇〇〇万円について得べかりし利益を失ったものである。

3  また右印刷機の製造販売により被告があげた利益は、売上総額三七億二四〇〇万円に利益率一〇・八三四パーセントをかけた四億〇三〇〇万円を下らないから、原告は、少なくとも右金額の損害を受けたものと推定される。

4  右2、3の損害額の合計は九四億八三〇〇万円となる。

五  よって、原告は、被告に対し、本件特許権に基づき、イ号物件、ロ号物件の製造販売の差止並びにイ号物件、ロ号物件及びその半製品、イ号物件、ロ号物件の製造に使用する機械器具の除却並びに本件特許権侵害の不法行為による損害賠償として、当事者の求めた裁判一3のとおりの金銭の支払いを求める。

第三  請求原因に対する認否及び被告の主張

一  請求原因一1ないし3は認める。

二1(一) 請求原因二1のイ号物件目録二のイ号物件の構成中、

(1)  2は否認する。2に対応する部分は「大径部側の支持軸153は、大径部151の端部に近接したフレーム4に、ローラーベアリング90にて回転可能に支持され、同ローラーベアリング90の軸方向移動を拘束する部材31により軸方向に移動可能にするという手段により円周方向及び軸方向に移動可能に支承させると共に、更に該フレーム4の外へと突出し、小径部152の支持軸154は、小径部152の端部に近接したフレーム5に、ローラーベアリング100にて回転可能に支持され、同ローラーベアリング100の軸方向移動を拘束する部材32により軸方向に移動可能にするという手段により円周方向及び軸方向に移動可能に支承されている。」とすべきである。

(2)  4は認める。しかし正確には、「ピン39は、支持軸154及び軸21の軸芯方向と直交するように穿った小径部の穴154b及び軸21の穴に、穴154bには概ね一〇ミリメートルの間隙を保ち、また軸21の穴には間隙を設けず、それぞれ貫通している。」とされるべきである。

(3)  5は、「前記ピン39に固着されている。」という部分を否認する。右部分は「前記ピン39に摺動ないし回動可能に連結されている。」とされるべきである。

(4)  6は否認する。6に対応する部分は「軸21はニードルベアリング143を介して版胴小径部152の穴154aに円周方向及び軸方向に移動可能に支承され、かつニードルベアリング54を介してフレームに軸方向に移動可能に支持された部材32に固着されている部材53に円周方向及び軸方向に移動可能に支承されると共に、更にフレーム5より外に突出している。」とされるべきである。

(5)  7は、その四行目の「連絡し、かつ、円筒15'に固着した軸21は、」とある部分を否認する。右部分は、「連絡させ、円筒15'にピン39をもって相対的に摺動可能に連結した軸21を」とすべきである。同じく六行目の「伝動連結される」との部分及び七行目の「連絡し、」とある部分を否認する。右各部分はそれぞれ「伝動連結する」及び「連結させ、」とすべきである。

(二) 請求原因二1のうち、イ号物件目録によるイ号物件の特定中右(一)で争う部分以外は認める。

右(一)のような訂正が加えられたものとしてのイ号物件については、昭和五三年五月に株式会社静岡新聞社に設計図を提出、試作機を運転公開し、説明を行ったが、製作販売には至らなかった。

2(一) 請求原因二1のロ号物件目録二のロ号物件の構成中、

(1)  2は否認する。2に対応する部分は「大径部側の支持軸153は、大径部151の端部に近接したフレーム4に、ローラーベアリング90にて回転可能に支持され、同ローラーベアリング90の軸方向移動を拘束する部材31により軸方向に移動可能にするという手段により円周方向及び軸方向に移動可能に支承させると共に、更に該フレーム4の外へと突出し、小径部152の支持軸154は、小径部152の端部に近接したフレーム5に、ローラーベアリング100にて回転可能に支持され、同ローラーベアリング100の軸方向移動を拘束する部材32により軸方向に移動可能にするという手段により円周方向及び軸方向に移動可能に支承されている。」とすべきである。

(2)  同4は否認する。4に相当する部分は、「ピン39は、支持軸154及び軸21の軸芯方向と直交するように穿った支持軸の穴154b及び軸21の穴に、穴154bには概ね一〇ミリメートルの間隙を保ち、また軸21の穴には〇・〇一ないし〇・〇四プラスマイナス〇・〇二ミリメートルの間隙を保って、それぞれ貫通している。」とされるべきである。

(3)  同5中、「前記ピン39に固着されている。」という部分を否認する。右部分は「前記ピン39に摺動ないし回動可能に連結されている。」とされるべきである。

(4)  同6は否認する。6に相当する部分は「軸21はニードルベアリング143を介して版胴小径部152の穴154aに円周方向及び軸方向に移動可能に支承され、かつニードルベアリング54を介してフレームに軸方向に移動可能に支持された部材32に固着されている部材53に円周方向及び軸方向に移動可能に支承されると共に、更にフレーム5より外に突出している。」とされるべきである。

(5)  同7について、「連絡し、かつ、円筒15'に固着した軸21は、」とある部分を否認する。右部分は、「連絡させ、円筒15'にピン39をもって相対的に摺動可能に連結した軸21を、」とすべきである。

(二) 請求原因二1のうちロ号物件目録によるロ号物件の特定中右(一)で争う部分以外は認める。

右(一)のような訂正が加えられたものとしてのロ号物件を、原告主張の時期頃から製造販売していたことは認める。現在、被告が製造販売しているのは別の物件である。

3 請求原因二2の被告製品の分説については、分説の仕方それ自体は争わないが、その内容については、右1、2で争う部分は同様に争う。

4 請求原因二3、4は争う。

三  請求原因三1ないし6は否認する。

四  請求原因四1は認め、同2ないし4は否認する。

五  請求原因五は争う。

六  被告の主張

1  固着について

(一) イ号物件、ロ号物件設計の経緯

(1) 被告は、昭和五二年初頭、訴外株式会社静岡新聞社から新聞輪転機の製造引合いを受け、同年二月四日、同社から版を二列にした版胴装置の操作側駆動側装置の見当合わせ時間を短縮する方法を考えてほしいとの要請を受けた。そこで、被告は、翌三月四日、概念図を作成して同社に提示した。右は本件発明の実施例として開示されたものと若干の差異はあるが、基本的構想において概ね同じものであった。その後被告は、右概念図を手直しした上図面化し、五月二六日同社に提示、説明したが、これは一部の点を除き本件発明と同一の構成になっていた。

しかし右構想のものは、本件発明と同様円筒と駆動・調整軸を固着しこれをフレームに支承させるもので、製作技術上印刷品質に影響が出ることが避け難く、また事故の可能性も払拭できなかったため、この駆動調整の役を果たす版胴大径部側支持軸を大径部側フレームに支承させ、同じく駆動調整の役を果たす版胴小径部側円筒に固着した軸を小径部側フレームに支承させ、二組の独立した版胴即ちそれぞれ一体の駆動・調整軸付き版胴を中央で突き合わせ小径部を入り込ませて連結する構想を捨て、一体の版胴本体を両側のフレームに支承させ、版胴本体大径部の片側半分を円筒形に切抜き、その部分を調整可能とし二組の版胴と同じ働きをさせることとしたのがイ号物件であり、被告は、昭和五三年五月中旬、静岡新聞社にその設計図を提出、試作機を運転公開し説明を行った。

(2) 本件発明は、版胴小径部側において、円筒に固着した駆動・調整軸に、円筒、版胴本体等による自重を含む強大なラジアル荷重を引き受けさせてこれをフレームに支承させるのに対し、イ号物件、ロ号物件は、円筒、版胴本体等による自重を含む強大なラジアル荷重を版胴本体に引き受けさせて、版胴大径部側、小径部側とも、版胴本体をフレームに支承させ、円筒を右のような強大なラジアル荷重を引受けない駆動、調整軸に、摺動ないし回動可能にピンをもって連結する方式を取っており、本件発明とイ号物件及びロ号物件とは、その構想を異にする。

(3) イ号物件において、駆動調整軸と円筒に固着したピンとは固着させる設計となっていた。即ち被告はイ号物件では、円筒に固着したピンと駆動調整軸を固着させる意図の下に設計し、両者の連絡方法として単純な挿入では摺動すると考え、穴よりもピンの径を大きくして嵌入する締まりばめという手段を採用したが、試作機の試運転を行って分解したところ、ピンは摺動していることが発見され、結局設計者の意図は固着にあったが、実際は摺動ないし回動していた。

被告はこのような強大なラジアル荷重が駆動調整軸等に悪影響を及ぼすことを憂慮し、むしろ、調整機能に影響を与えない程度でピンと穴との間に間隙を設け、積極的にピンの摺動ないし回動を許し、ラジアル荷重による悪影響を緩和する方が得策であると考えるに至り、ロ号物件にこれを採用し、ロ号物件第一号機について、ピン39と軸21との間に現合で〇・〇一ミリメートルの間隙を設けた。右イ号物件の例から見れば、この場合両者が摺動ないし回動するのは当然である。被告は、その後の製作物件には順次右隙間を拡大し、ついにこれを〇・〇四プラスマイナス〇・〇二ミリメートルとした。

この点について、答弁書においてはイ号物件も、ピン39が駆動調整軸21の穴との間で間隔を保っていると主張したが、これはイ号物件は実際に製造販売しなかったし、ロ号物件を重視し、ロ号物件の説明にイ号物件は準じるという形で論議を進めてきたためである。

(二) 以上の経緯を示すのが乙第五号証の一の現場図である。

同証中、最初に隙間を設けた記載は、右訂正欄bに示されるように、中井ほか三名の者によることは明らかで、また再製者も管理課として再製の証明印が押捺されており、証明力は十分である。間隙拡大についての日時、訂正者こそ明らかでないが、それが再出図後、汚染現場図より同証に転記されているものを確認する旨の記載がある。旧現場図と再出図図面を差し替えるとき、前者の記入事項を後者に忠実に転記することは、古くなったから再製する以上当然のことである。

このような複雑な書込書面が後日、捏造できるものではなく、被告工場において現実に使用されてきたものである。

原図についていえば、右bの訂正は、原図自体が訂正されている。この他、原図の訂正がなされていないものが存在するが、被告の印刷機工場においては、伝統的に製作部門に高度な工作、組立て、運転技術が存在し、これらの各製作部門技術者の工夫、ノウハウが常時設計部門との緊密な連絡のもとに発揮されている。即ち、製作を担当する部門は、自主的に常に改良を試み、改良の結果が良い場合には、設計部門の了解を求めて行動を起こしている。設計者に書面又は会議、口頭等で了承を求めて原図を訂正して、その原図のコピーが現場図として配布され、それに基づき加工するのが原則であるが、被告においては、慣習上現場図が先に修正される例が少なくない。設計方針の基本的変更となるような場合を除き、寸法の一部変更等訂正の容易なものは、適宜設計者の了解を取り、原図が後日訂正されるという暗黙の了解のもとに、現場図を先に修正してそれに基づいて加工する。これは被告自ら機械加工設備を有する工場を持っているので、重要な部品に関しては加工現場が社内で単一にきめられており、現場図をもとに製造して何ら支障はないし、また製造部門より実際的な技術改善、改良の提案が数多くなされるので、口頭による連絡、設計了承、現場図修正の頻度が多いからである。本件のピンと軸穴との隙間に関するb以後の訂正の場合、原図の事後訂正がなされていないが、これは数値が逐次増加している点から流動的であると考えられたために、原図の訂正がなされないでそのまま経過してしまったものと思われる。

(三) 原告は、請求原因二3(二)(3)bのように主張する。しかし見当調整をするときには、運転中に、駆動系の間隙が詰められた条件下で行うから支障はない。即ち、調整前の円筒の位置は駆動系の間隙が詰められた位置が機器に表示されており、次に調整後結果として円筒が動いた位置も、同様に駆動系の間隙は詰められ表示される。そしてその調整の過程でも、軸21は正確に天地方向に回転し、円筒15'及びピン39も駆動の間隙を詰める力が常時働いているので、軸21と接して動くため何の問題もない。また調整後の調整結果の維持についても、駆動系の間隙は印刷機業界共通の別の工夫、即ち、胴仕立てといわれる版胴外形寸法とブランケット胴外形寸法を相互に微妙に変えたり、その間の圧縮量を特定値にしたりして、両胴間の接触部分を滑らなくし、また円周方向の微妙な力を発生させ、両胴間の駆動系の間隙を一方的に詰めて動かさなくする工夫をすることや、版胴への駆動力により、間隙を動かなくする技術があるので、これも同様に問題がない。

なお、回転方向の隙間を一方向に詰めて、軸21とピン39とが回転方向に接触を保っていても、両者はピン39の長手方向及び同じく円周方向には動きが拘束されていないから、相互に運動するのであり、これが被告の主張する軸とピンの間の摺動ないし回動である。

(四) 本件発明における「固着」とは、定位置に動かないように取り付けることをいうものである。そうすると、イ号物件のように強大なラジアル荷重のためとはいえ、ピン39と軸21が、定位置から動いて摺動するようなものであるときは、定位置に動かないように取り付けたとはいえない。またロ号物件については、ピン39と軸21の穴に隙間を設けているので、その隙間がある以上、その大小を問わず定位置というものはなく、固着していないことは明らかである。

原告は、本件特許請求の範囲については、個別見当調整に必要な範囲で動かなければ、「固着」に該当すると主張するが、ピンと軸の穴との間に隙間があるようにピンを軸の穴に挿入することは「緩挿」に当たり、右「緩挿」と、「固着」が同義であると解すべき根拠はない。むしろ逆に、本件発明のように軸が版胴という強大なラジアル荷重を担ってフレームに支承されるという構成から考えると、円筒との連結に僅少なガタがあると、連続運転によりそれが拡大するので、本件発明にいう固着とは、寸分のガタなく強固に固着するものであることが窺われるところである。

発明はその究極的目的を達成するために、種々の技術的手段を工夫し、組立てるもので、個々の技術手段はそれぞれの目的、機能に応じて、選択するものであり、発明の構成要件に属するものは右の個々の技術手段であって、その選択、総合、適用が発明なのである。その発明の個々の技術手段について固着と記載してある場合、その発明の果たす究極的作用効果と同一の効果を果たせば、仮に中間的技術手段として非固着を採用した場合でもそれは固着となるということはできない。

発明は技術的手段の集積であるから、その個々の技術的手段についてその直接の目的、機能に基づき、その技術的手段を解釈すべきであって、本件発明についていえば、その軸は見当調整及び駆動を行うという機能を果たすだけでなく、印圧、版胴本体の自重等の強大なラジアル荷重を受け止めてフレームに支承させるという機能も担っているのである。その円筒との固着は、ガタが多少でもあれば版胴本体からの強大なラジアル荷重、版胴の回転運動からして永続的使用に耐えないことが明らかである。本件訂正公報二頁二一行目以下の本件発明の実施例についての記載、即ち「円筒15'の端部は(中略)軸21に、数個のねじ22で固定され」とあることに照らしても、両者間の固着は隙間や摺動を許さぬ強固な固着でなければならないものである。

これに対し、イ号物件及びロ号物件においては、その軸21はラジアル荷重支持の機能を持たず、版胴小径部に連設した支持軸154でフレームに支承させ、右のようなラジアル荷重を支持させているので、本件発明と異なり、軸21は支持軸154の内側に入らざるを得ないことになり、また軸21は円筒との連結に際し、本件発明のように固着とせず、ピン39、軸21間に間隙を設けて摺動自在にする必要が生じ、またこれをすることができるのであるし、フレーム自体に支承させず、部材53に支承させることもできるというように種々の相違点が生じてくるのである。

(五) 実用新案登録出願の経過について

被告は、昭和五三年一〇月二三日の実用新案登録出願時には、前記1(一)(3)の試作機の試運転によりイ号物件の問題点が発見される前のことであったため、本件発明の実施例である円筒と一体化した駆動調整軸をもって版胴からの荷重をフレームに支承させる構成のものを第一実施例とし、イ号物件のように版胴小径部の延長である支持軸で、版胴からの荷重をフレームに支承させ、駆動調整軸は右支持軸の内部を通ってピンを介して円筒に固着連結する構成のものを第二実施例として、登録請求の範囲はこれらを包含するものとしていたが、試運転によりイ号物件の問題点を発見した後である昭和五九年一〇月九日に特許庁から本件発明を引用例として拒絶理由通知がなされたので、被告は第二実施例に限定する補正手続きを行った。その際、当初の登録請求の範囲を残存実施例の示す考案に限定するように構成要件を具体化することが必要となり、その記載に際して、軸とピンとの連結方法について触れざるを得なかったところ、第二実施例は固着としていたため、もしこれを固着としなければ明らかに第二実施例と異なってしまうし、固着を残し、これに当時製造販売していたロ号物件のように隙間を設ける場合を含めるようにすると、要旨変更とされるおそれがあったから固着と明記したものであって、ピンと軸とを固着としたのは、ロ号物件を製造販売していたかどうかとは無関係である。

またピンと軸穴との間に隙間を設けることは被告の企業秘密としていたことであるから、この登録を受ければ、第二実施例の基本構成のものに他社が追随することを防ぐことになるとも考えられた。

原告は、ピンと軸とを摺動ないし回動させることに技術的利点がなく、欠陥があるとするが、被告ロ号物件は、昭和五五年六月五日以来一〇年余りに及ぶ実績において何らクレームを受けておらず、順調に稼働しているものであり、欠陥がないことはこのことからも明らかである。

2  支承について

(一) 本件発明の構成要件中争点に関する部分は次のとおりである。

ア 前記大径部及び小径部の各端部に、各端部に近接したフレームに至る支持軸をそれぞれ設け、

イ 大径部側の前記支持軸を前記大径部の端部に近接したフレームに円周方向及び軸方向に移動可能に支承させるとともに、更にフレーム外へと突出させ、

ウ 前記他方の版胴部をなす円筒には、小径部側の前記支持軸に対し、円周方向及び軸方向に移動可能な軸を固着し、該軸を前記小径部の端部に近接したフレームに円周方向及び軸方向に移動可能に支承させるとともに、更に該フレーム外へと突出させ

(二) 右構成要件の記載によれば、アの「至る」と、イ及びウの「支承させる」とは、異なる構成要件であることは明らかであり、また右イの要件においては、「大径部側の前記支持軸を、フレームに、支承させる」とし、ウの要件においては、「前記他方の版胴部をなす円筒には、軸を固着し、該軸を、フレームに、支承させる」とする点からすれば、版胴装置をフレームにより支えるのは、大径部側は支持軸、小径部側は円筒に固着した軸であることは明らかである。そうすれば、印圧及び版胴等の自重等の強大なラジアル荷重は、これらにより支えるものであることも明瞭である。

原告は、円筒固着軸もフレームに支承されるとするが、支持軸は円筒固着軸の内側にあるから、円筒固着軸を介して間接的にフレームに支持されるにすぎない。支承ということが間接的にフレームに支持されることをいうのなら、版胴装置の各部品が全部フレームに支承されるということ、即ち版胴装置はフレームにより支持されているというだけのことで当然の話である。問題は、前記の強大なラジアル荷重が装置のどこで最終的にフレームに支承されているかである。

イ号物件、ロ号物件は、印圧、版胴等の自重による強大なラジアル荷重を小径部側支持軸でフレームに支承させ、駆動調整軸で、右ラジアル荷重を支承させるのではないという本件発明のものとの根本的な差異が両者には存在する。

(三) そもそもフレーム外から個別見当調整をするという方法を採るためには、その個別見当調整操作部分をフレーム外に出す必要がある。フレーム外からの見当調整に支障がないように操作部分をフレーム外に出すためには、どこからいかにしてフレーム外に出すか、換言すれば、装置中のどこをフレームに支承させ、その自重をフレームに支持させて、個別見当調整操作機構をフレームの外に出すかが解決すべき技術的課題となる。

本件発明は、円筒に固着させた軸をフレーム外に突出させる構成を採る小径部側は、円筒固着軸に版胴の自重を支えさせて、かつフレームに円周方向及び軸方向に移動可能に支承させることにより、右の技術的課題を解決したものである。これに対し、イ号物件、ロ号物件は、版胴の自重を支えるものは、大径部側支持軸及び小径部側支持軸とし、小径部側においては版胴の自重を支えるものではない軸を外部から入れて見当調整を行うという構成を採ったものであり、本件発明とは構成において異なる。

本件発明は、フレームの外に駆動調整をする軸を突出させて、フレーム外から操作することができることを主たる目的としたものであるから、右軸をフレームの外から印刷機能に支障を与えることなく操作できるように機械中の何を、いかに、フレームに支承させるようにするかが解決すべき最大の技術的課題である。調整機構をフレームの外に出すというだけでは、単なる着想に過ぎず、技術的解決にはならない。連接する駆動、調整機構をフレーム外側に出しながら、駆動、調整に支障を与えず、かつ強大なラジアル荷重に耐えるように、回転体である版胴装置を固定体であるフレームに支承させ、なおかつ機械としての耐久性を持たせる工夫があって初めて、具体的技術解決といえるのであり、右軸をフレームの外へ出すために、印刷機構成部品のどこをフレームに乗せてもよいというものではない。これを本件発明は大径部側においては大径部の支持軸を、小径部側においては円筒に固着した軸をそれぞれフレームに円周方向及び軸方向に移動可能に支承させることにより解決したのである。したがって、小径部側において何を、いかにフレームに支承させているかは本件発明の必須構成要件といわなければならない。

本件発明の軸は、フレーム外からの調整と駆動を円筒に伝える機能のほかに、大径部の支持軸とあいまって強大なる版胴本体のラジアル荷重を支える機能を有するものであるのに対して、被告製品の軸は、右調整、駆動の機能を果たすが版胴本体の荷重を支える機能を有するものではないことはその構成上明らかである。

(四) なお、次の出願経過に鑑みれば、これらの解釈が裏付けられることは明らかである。即ち、

(1) 原告が昭和六一年八月四日付けで行った手続補正(以下「第一次補正」という。)では、特許請求の範囲第二文において、「版胴の軸方向の一側部を段状の小径にし、この小径部に、一端に軸を固着した円筒を版胴に対して、常時回転及び軸方向に摺動自在に嵌合し、」とされている。

本件発明では、軸21が支持軸154を支持する関係に立つ。そうすると、軸21を固着した円筒と小径部とを回転及び軸方向に摺動自在にするためには、軸21と小径部側支持軸154とを回転及び軸方向に摺動自在にしなければならない。右の第一次補正の趣旨は、軸21プラス円筒15'と支持軸154を含めた小径部とを回転及び軸方向に摺動自在に嵌合させるという趣旨であったか、あるいは、少なくともこれを前提にする趣旨であったと思われる。

しかるところ、イ号物件及びロ号物件においては、駆動調整軸21は、小径部支持軸154及び小径部152の芯部に穿った穴154aに間隙を保って挿入され、その一端はニードルベアリング143を介して小径部152に支持され、またその他端はニードルベアリング54を介して軸受32に固着されたブラケット53に支持されている。したがって、イ号物件及びロ号物件の軸21は小径部支持軸154との間に接触がなく、両者は摺動しない。

(2) また原告は、第一次補正において、「しばしば故障の原因となる開口部が、この発明では版胴の中央片側一か所であるので、異物が嵌合部に進入することによって生じる化学変化や摺動部の動作不良を最小限とすることができる」と記述している部分がある。これは、本件発明においては円筒15'と軸21が版胴へ嵌合された状態で、開孔部が中央部一か所であることを明らかにしているものである。第二次補正では、右記載は省略されているが、そうだとしても本件発明は右のような構成、作用効果を有するものである。

原告のこの点に関する主張については、乙第三一号証の従来技術との比較が、昭和六一年八月四日付けの手続補正書の別紙明細書四頁から五頁にかけて記述されているところ、上記の文章の部分は、これとは離れて同明細書一八頁に発明の効果として一般的に述べられているものである。また本件発明の審理過程において、版胴の一方を小径にし、これに円筒を嵌合させる技術は公知技術として被告から提出され審理の対象とされていたのであるから、右の部分の叙述をもって、本件発明の特有の効果として記載するはずがない。

乙第三一号証の技術は円筒の両端に開口部が合計四か所、乙第三二号証のものには開口部が二か所あるにもかかわらず、本件発明は一か所としたことについて、化学変化、動作不良を最小限とした旨述べたものと解される。原告主張のとおりであるならば、円筒のそれぞれの外側開口部からは異物の進入はなく、考慮に値しなかったということでなければならず、また円筒外側からの異物、進入を防がずして、異物が嵌合部に進入することによって生ずる化学変化や摺動部の動作不良を「最小限とする」ことにはならなかったはずである。

なお、これに対し、イ号物件及びロ号物件は、ピンを装着した範囲を除いては円筒と小径部との嵌合部は円筒の両端二か所に開口している。

第四  証拠関係

証拠の関係は、本件記録中の証拠に関する目録記載のとおりである。

理由

一  請求原因一1ないし3は、当事者間に争いがない。

二1  イ号物件の特定について

(一)  イ号物件目録中二のイ号物件の構成2について

当事者間にイ号物件の図面として争いがない別紙イ号物件目録第5図によれば、イ号物件目録中二のイ号物件の構成2の部分は、より正確に表現すれば、被告主張のとおり、「大径部側の支持軸153は、大径部151の端部に近接したフレーム4にローラーベアリング90にて回転可能に支持され、同ローラーベアリング90の軸方向移動を拘束する部材31により軸方向に移動可能にするという手段により円周方向及び軸方向に移動可能に支承させると共に、更に該フレーム4の外へと突出し、小径部152の支持軸154は、小径部152の端部に近接したフレーム5に、ローラーベアリング100にて回転可能に支持され、同ローラーベアリング100の軸方向移動を拘束する部材32により軸方向に移動可能にするという手段により円周方向及び軸方向に移動可能に支承されている。」ものと認められる。

(二)  イ号物件目録中二のイ号物件の構成4、5について

ピン39は、小径部152及び軸21の軸芯方向と直交するように穿った小径部の穴154b及び軸21の穴に貫通していること並びに軸21は、支持軸154及び版胴小径部152の芯部に穿った穴154aにそれぞれ間隙を保って挿入されていることは当事者間に争いがなく、証人川崎宏治の証言によって成立の認められる乙第五号証の一、二、乙第一一号証、乙第二一号証、証人濱田征志朗の証言によって成立の認められる乙第一〇号証、乙第二〇号証、証人濃明晃の証言によって成立の認められる乙第一九号証、証人濃明晃、同濱田征志朗、同川崎宏治の各証言、弁論の全趣旨によれば、貫通しているピン39は、小径部の穴154bの内径よりもピン39の外径が概ね一〇ミリメートル小さい状態とし、また軸21の穴との間は、設計上締まりばめという固定方式をとるものとされ、そのために、ピン39の外径の方が軸21の穴の内径よりも大きく、その結果ピン39と軸21の穴との間に間隙が設けられていないこと、しかし実際には、約一年間の試用中に、ピン39は軸21の穴の中で回転方向に移動したことが認められる。

このように、設計上締まりばめという固定方式をとるものとされ、そのために、ピン39の外径の方が軸21の穴の内径よりも大きく、その結果ピン39と軸21の穴との間に間隙が設けられていないように製造されている以上、実際にはピン39が軸21の穴の中で回転方向に移動するとしても、軸21はピン39に固定されているものというべきである。

(三)  イ号物件目録中二のイ号物件の構成6について

当事者間に争いがない別紙イ号物件目録第5図及び第6図によれば、軸21の一側は版胴の穴154aに差し入れられていて、版胴の穴154aが接しているニードルベアリング143に接しているとともに、軸21の他の一側はフレーム5の穴を通ってフレーム5の外へ突出していて、フレーム5が接している部材32が固着されている部材53が接しているところのニードルベアリング54に接しており、軸21は円周方向及び軸方向に移動可能であるものと認められる。

(四)  イ号物件目録中二のイ号物件の構成7について

四行目の「連絡し、かつ、円筒15'に固着した軸21は、」とある部分は、右(二)に認定判断したところ及び弁論の全趣旨によれば「連絡し、かつ、円筒15'にピン39をもって固定して連結された軸21は」とするのが相当であり、六行目の「伝動連結される」とある部分、七行目の「連絡し、」とある部分は、同様の理由により原告主張のとおりとするのが相当と認められる。

(五)  イ号物件目録中二のイ号物件の構成1、3及び右(一)ないし(四)に判断した箇所を除くその余のイ号物件目録の記載は当事者間に争いがない。

2  イ号物件の構成の分説について

右1によれば、イ号物件の構成は、本件発明の構成要件AないしHに対応して、次のように分説することができると認められる(以下、各々のイ号物件の構成を、「イ号物件の構成a」、「イ号物件の構成b」などということがある。)。

a  版胴3ないし3〓に装着された版の印刷図柄が、版胴3ないし3〓の駆動源であるブランケット胴2ないし2〓に転写された後、ブランケット胴2ないし2〓と圧胴1との間を通る印刷用紙に印刷される輪転印刷機の版胴装置である。

b  版胴3ないし3〓は、大径部151を一方の版胴部とし、大径部151に段状に連続した小径部152に円周方向及び軸方向に摺動可能に嵌合する円筒15'を他方の版胴部として、左右のフレーム4と5の間に配置されるよう構成されている。

c  大径部151及び小径部152の各端部に、各端部に近接したフレーム4ないし5に至る支持軸153及び154をそれぞれ設けている。

d  大径部側の支持軸153は、大径部151の端部に近接したフレーム4にローラーベアリング90にて回転可能に支持され、同ローラーベアリング90の軸方向移動を拘束する部材31により軸方向に移動可能にするという手段により円周方向及び軸方向に移動可能に支承させると共に、更に該フレーム4の外へと突出させてある。

e  小径部152の支持軸154は、小径部152の端部に近接したフレーム5にローラーベアリング100にて回転可能に支持され、同ローラーベアリング100の軸方向移動を拘束する部材32により軸方向に移動可能にするという手段により円周方向及び軸方向に移動可能に支承されている。

f  前記他方の版胴部をなす円筒15'の端部に固着されたベアラにはピン39が固着されている。ピン39は、小径部152及び軸21の軸芯方向と直交するように穿った小径部の穴154b及び軸21の穴に、穴154bの内径よりもピン39の外径が概ね一〇ミリメートル小さい状態とし、また軸21の穴には間隙を設けず、それぞれ貫通している。軸21の一側は支持軸154及び版胴小径部152の芯部に穿った穴154aにそれぞれ間隙を保って挿入されていて、版胴の穴154aが接しているニードルベアリング143に接しているとともに、軸21の他の一側は小径部152の端部に近接したフレーム5の穴を通ってフレーム5の外へ突出していて、フレーム5が接している部材32が固着されている部材53が接しているところのニードルベアリング54に接しており、軸21は円周方向及び軸方向に移動可能である。

g  大径部側の支持軸153は、フレーム4の外側において駆動源であるブランケット胴2ないし2〓の軸901によって駆動されうるよう伝動連結されると共に、軸方向調整機構903及び円周方向調整機構904に連絡し、かつ前記軸21は、フレーム5の外側において同じく駆動源であるブランケット胴2ないし2〓の軸902によって駆動されうるよう伝動連結されるとともに、軸方向調整機構903'及び円周方向調整機構904'に連絡させてある。

h  一方の版胴部と他方の版胴部とが、それらの同一駆動源であるブランケット胴2ないし2〓に対して、それぞれ個別に回転位相と軸方向の位置を調整されるようにしてある

i  輪転印刷機における版胴装置。

三  イ号物件の構成要件該当性について

1  右二に認定したイ号物件の構成と、当事者間に争いがない請求原因一2の本件発明の構成要件とを対比すると、

(一)  イ号物件の構成aは、本件発明の構成要件Aに該当すると認められる。

(二)  イ号物件の構成bは、本件発明構の成要件Bに該当すると認められる。

(三)  イ号物件の構成cは、本件発明の構成要件Cに該当すると認められる。

(四)  イ号物件の構成dは、本件発明の構成要件Dに該当すると認められる。

(五)  イ号物件の構成gは、本件発明の構成要件Fの内、前記軸が「円筒に固着した」ものである点を除くその余の部分に該当すると認められる。

(六)  イ号物件の構成hは、本件発明の構成要件Gに該当すると認められる。

(七)  イ号物件の構成iは、本件発明の構成要件Hに該当すると認められる。

2  原告は、イ号物件の構成fが本件発明の構成要件Eを、充足すると主張する。

(一)  イ号物件の構成fのうち「前記他方の版胴部をなす円筒15'」は、本件発明の構成要件E中の「前記他方の版胴部をなす円筒」に、「軸21の他の一側は小径部152の端部に近接したフレーム5の穴を通ってフレーム5の外へ突出して」いることは、本件発明の構成要件E中の「該軸を前記小径部の端部に近接した」「該フレームの外へと突出させ」にそれぞれ該当すると認められる。

また、イ号物件の構成fのうち「軸21の他の一側は小径部152の端部に近接したフレーム5の穴を通ってフレーム5の外へ突出していて、・・・軸21は円周方向及び軸方向に移動可能である。」ことは、本件発明の構成要件E中の「該軸」が「前記小径部の端部に近接したフレーム」に対し「円周方向及び軸方向に移動可能」である関係に相当し、イ号物件の構成fのうち「軸21の一側は支持軸154及び版胴小径部152の芯部に穿った穴154aにそれぞれ間隙を保って挿入されていて、・・・軸21は円周方向及び軸方向に移動可能である」ことは、イ号物件の構成eと併せると、本件発明の構成要件Eの円筒に固着される「軸」が「小径部側の前記支持軸に対し円周方向及び軸方向に移動可能な」関係に相当するものと認められる。

したがって、問題は、イ号物件が、本件発明の構成要件E中の「円筒には、・・・軸を固着し、」及び「該軸を・・・フレームに・・・支承させる」の構成を具備すると認められるか否かにある。

(二)  「固着」の語は、一般用語としては、「物などがしっかり着いて離れないこと。かたくつくこと。」等の意味を有することは当裁判所に顕著であり、成立に争いのない乙第八号証の一ないし四によれば、特許明細書に「固着」の語が用いられる場合の一般的意味として「固定した形で取りつける。」と説明される場合があることが認められるが、成立に争いのない甲第一五号証ないし甲第一七号証によれば、特許庁が、広範な産業分野において利用されている固着技術を、特許・実用新案公報を中心として体系的に整理した図書には、固着の対象となる部材相互が全く動かないように固く取り付けられていない場合も記載されていることが認められる。

また、成立に争いのない甲第一一号証によれば、特許明細書に「支承」の語が用いられる場合の一般的意味として、「取りはずし可能な状態にて支える。」と説明される場合があることが認められるが、他方、「支」の文字は、「ささえる。もちこたえる。」等の字義を有し、「承」の文字は、「下から上のものをうける。うけいただく。」等の字義を有することは当裁判所に顕著である。

右のように「固着」、「支承」の二語ともに機械的要素の構成を表現する語としては基本的意味を有するから、このような意味を念頭に置きつつ、本件明細書に記載された右の各語の意味を解釈する必要がある。

(三)  本件明細書の発明の詳細な説明の項には、本件発明の目的について、「軸方向左右に振り分けた版装着部のそれぞれを版を取付けた状態で、しかも運転中に個々別々に円周方向および軸方向に微動調整を行うことができ、これにより極めて容易にかつ短時間内で版の見当合せができるようにした輪転印刷機における版胴装置を提供しようとするものである。」との記載がある。

また、請求原因一3の本件発明の作用効果は当事者間に争いがない(本件明細書の発明の詳細な説明の項にはそのとおりの記載がある。)。

(四)  右のような本件発明の目的、作用効果を参酌しつつ、本件明細書の特許請求の範囲の項を検討すると、小径部に嵌合し「他方の版胴部をなす円筒には、・・・軸を固着し、該軸を前記小径部の端部に近接したフレームに円周方向及び軸方向に移動可能に支承させると共に、更に該フレーム外へと突出させ、」、「大径部側の前記支持軸と、円筒に固着した前記軸とをそれぞれフレームの外側において、駆動源のブランケット胴の左右軸によって各々駆動されうるよう伝動連結すると共に、それぞれの軸方向調整機構及び円周方向調整機構に連絡させ」る構成とするのは、駆動源のブランケット胴の一方の軸によって駆動されるように伝動連結されると共に、軸方向調整機構及び円周方向調整機構に連絡させた軸を円筒に「固着」することによって、他方の版胴部となる前記円筒が大径部及び小径部とは、同速であっても独立に回転する駆動力を伝達すると共に、軸方向調整機構及び円周方向調整機構による軸方向又は円周方向への微動調整する力を円筒に伝達することによって、円筒を大径部及び小径部とは独立的に軸方向又は円周方向に調整する作用を果たすことを企図してのものであると認められる。

また、本件発明が、輪転印刷機の版胴装置に関するものである以上、「大径部を一方の版胴部とし、・・・小径部に・・・嵌合する円筒を他方の版胴部として、左右のフレーム間に配置されるよう構成」された版胴は、相当の自重を有し、かつ、印圧等のラジアル荷重を受けつつ、円周方向に高速度で回転するものであるから、「大径部および小径部の各端部に・・・支持軸を設け」、その支持軸を回転の軸とすると共に、少なくとも、大径部と小径部からなる基胴の自重と印圧等のラジアル荷重を最終的にはフレームに担持させる必要があることは自ずから明らかである。そして、大径部の端部に、その端部に近接したフレームに至る支持軸を設け、この「大径部側の前記支持軸を前記大径部の端部に近接したフレームに円周方向および軸方向に移動可能に支承させる」構成によって、大径部側の支持軸をフレームに支持させて、回転の軸とすると共に、基胴の自重及び荷重をフレームに直接担持させていることは明白である。これに対し、小径部の端部に設けられた支持軸については、その「端部に近接したフレームに至る」ものとされているが、小径部に嵌合した円筒に固着された軸を、前記のとおり小径部の端部に近接したフレームに支承させると共に、これを該フレーム外へと突出させ、フレームの外側において、駆動源のブランケット胴の軸によって駆動されうるよう伝動連結すると共に、軸方向調整機構及び円周方向調整機構に連絡させていることとのかね合い上、小径部の端部に設けられた支持軸をどのように支持して回転の軸とし、小径部側では基胴の自重及び荷重をどのようにしてフレームに最終的に担持させるかについては明らかでなく、ただ、前記円筒に固着される軸について、「小径部側の前記支持軸に対し円周方向および軸方向に移動可能な軸」とする限定がされているのみである。

(五)  そこで、本件明細書の発明の詳細な説明の項中の唯一の実施例についての記載及び本件特許願に添付された図面のうち、右実施例についての第5図、第6図を検討する。

右実施例においては、小径部152の外周面に、円周方向及び軸方向に摺動可能に嵌合された「円筒15'の端部は、基礎胴の一端部にある支持軸154に円周方向および軸方向に移動自在に設けた軸21に、数個のねじ22で固定されていて、この軸21はフレーム5に嵌合されたスリーブ23に装着されたローラベヤリング24にて保持され駆動軸部を形成している。」ものとされ、第5図及び第6図には、右軸21の外径は、前記円筒に接する部分では、円筒の外径とほぼ同径であるが、フレーム5の位置、フレーム外への突出部分の方向に順次段階的に細くなるが、右軸21の、円筒側の端部からフレーム5の厚さの大半に位置するまでは、軸21と同軸で順次口径が小さくなるような円筒(但し、最奥部は円錐)を除去した中空となっており、右中空部に、支持軸154が嵌合している状況が図示されている。そして、このような構成において、「駆動軸8を回転することによりベベルギア10、11を介して共通圧胴1が回転され、これによりブランケット胴2が回転される。このブランケット胴2の回転により大径部151を一部とする基胴はヘリカルギア13、14の齧合により回転駆動される。また基胴の小径部152に嵌合した円筒15'は、ブランケット胴2の他端側に設けた駆動側のヘリカルギア28、従動側のヘリカルギア33、ギヤカップリング31、インターナルギア30、エキスターナルギア29を介して軸21と共に前記大径部151を一部とする基胴と同一回転数で回転駆動される。」のであるから、実施例のものにおいては、円筒15'には、右円筒15'に接する部分では円筒の外径とほぼ同径で外方向へ順次段階的に細くなる一部中空の軸21が数個のねじ22で固定されており、基胴の小径部側の支持軸154は、軸21の中空部に嵌合され、軸21と同一回転数で回転駆動されるのであるから、小径部側の支持軸154は、軸21の中空部の周壁に支持されて回転の軸となり、基胴の自重及び荷重は、小径部側では、支持軸154の負荷が、軸21、軸21を保持するローラベヤリング24、スリーブ23を介してフレーム5に担持されていることが明らかである。

(六)  次に、本件特許権の成立までの経過について検討すると、当事者間に争いのない請求原因一1並びにいずれも成立に争いがない甲第一号証ないし甲第三号証、甲第二二号証、乙第一号証、乙第三〇号証及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1) 本件発明は、昭和五二年四月二七日特許出願され、昭和五九年八月二日出願公告(甲第三号証)がされた。右出願公告の内容は別紙特許公報(昭五九-三一四六七)写しのとおりである。右出願公告に対し、特許異議の申立てがあり、原告は、昭和六〇年五月二〇日付け手続補正書(甲第二二号証)をもって明細書全文及び図面(番号の加入)を補正したが、右補正は却下された上、特許異議の申立は理由ある旨決定されると共に、特許拒絶査定がされた。

(2) これに対し、原告は、昭和六一年七月四日拒絶査定不服審判請求を行うと共に、昭和六一年八月四日付け手続補正書(乙第三〇号証)をもって、特許請求の範囲を含む明細書全文を補正した(この補正を以下「昭和六一年補正」という。)。補正後の特許請求の範囲は、別紙「昭和六一年補正後の特許請求の範囲」のとおりである。

(3) 原告は、更に平成元年二月二二日付け手続補正書をもって、再度特許請求の範囲を含む明細書全文及び図面(第3図ないし第6図に番号を加入)を補正し(この補正を以下「平成元年補正」という。)、その結果、平成元年三月三〇日、「原査定を取り消す。本願の発明は、特許をすべきものとする。」との審決を受け、平成元年八月二四日、本件発明について特許登録を受けた。右補正の内容は、別紙「特許法第64条の規定による補正の掲載」写しのとおりである。

(4) 右のとおり、本件明細書及び図面は、却下された昭和六〇年五月二〇日付け手続補正書による補正を除外しても、出願公告後、昭和六一年補正、平成元年補正と二回の補正がされているが、この間、図面の補正は番号が加入されたのみで実質的には変更がなく、また、実施例についても説明がより詳細になったり、変更されてはいるが、開示されている構成そのものには実質的には変更がない。

(七)  ところで、昭和六一年補正、平成元年補正はいずれも補正の当時施行の平成五年法律第二六号による改正前の特許法六四条所定の出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達があった後に行われた補正であるから、同条一項により、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明瞭でない記載の釈明のいずれかを目的とするものに限られ、また同条二項によって準用される補正当時の特許法一二六条二項により、右の補正は実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであってはならないものである。

そして補正当時の特許法六四条一項にいう「願書に添附した明細書又は図面」とは、出願公告をすべき旨の決定謄本送達後の当該補正の時点における明細書又は図面であり、当該補正が同項但し書き及び二項の要件を具備するか否かも、その補正の時点における明細書及び図面の記載を基準として判断されるべきであり、例えば、出願公告決定謄本送達後に一回又は数回の補正がされた後に更に行う補正の対象は、直前の補正後の明細書又は図面であり、同条一項但し書き及び二項の要件を具備するか否かも直前の補正後の明細書及び図面を基準として判断されるものと解するのが相当である。

なぜなら、直前の補正が、却下されることなく適法なものとして採用されていることからすれば、直前の補正により当該明細書は補正後のものとなっていると認められるとともに、出願公告をすべき旨の決定謄本送達の後にされる補正は、公告された特許請求の範囲を拡張するものであってはならないとする前記各補正当時の特許法六四条の趣旨は、出願公告決定謄本送達後の二回目以降の補正についても当てはまると見るべきだからである。

そうすると、出願公告決定謄本送達後、昭和六一年補正、平成元年補正と二回の却下されない補正を経ている本件発明は、出願人である原告が自己の責任において補正当時の特許法六四条一項、二項の要件を充足するものと判断し、特許庁の審判官の合議体も却下することなく補正を認めた結果特許されるに至ったものであるから、平成元年補正による現在の特許請求の範囲の記載に基づく本件発明の権利範囲の解釈に当たっても、そのことを前提にして、出願公告時及び昭和六一年補正の後の、各々の明細書及び図面の記載を参酌することができるものである。

(八)(1)  出願公告時の特許請求の範囲の記載中には、基胴と円筒の関係が、「印刷機の版胴の軸方向の一側部を段状の小径にし、この小径部に、一端に軸を固着した円筒を版胴に対して回転および軸方向に摺動自在に嵌合し、」と記載されている。即ち、単なる「円筒」と版胴の関係ではなく、「一端に軸を固着してある円筒」と版胴の関係として、「版胴に対して回転および軸方向に摺動自在に嵌合」するものとされていたのである。

「摺動自在」という語の中の「自在」に技術用語として特別の意味があることを認めるに足りる証拠はなく、一般用語としての「自在」が、「思いのままであること。束縛や障害のないこと。心のまま。」等の意味を有することは当裁判所に顕著である。

したがって、出願公告時の特許請求の範囲の記載では、「一端に軸を固着してある円筒」が版胴に対して回転方向及び軸方向に束縛や障害がなく摺動する状態で嵌合するものとされていたものである。

次いで、昭和六一年補正後の特許請求の範囲の記載中にも、基胴と円筒の関係は、「印刷機の版胴の軸方向の一側部を段状の小径にし、この小径部に、一端に軸を固着した円筒を版胴に対して常時回転および軸方向に摺動自在に嵌合し、」と「常時」の語が付加された外は同じ記載があった。

(2)  また、乙第三〇号証によれば、昭和六一年補正による補正後の発明の詳細な説明の項には、本件発明の効果として、「しばしば故障の原因となる開口部が、この発明では版胴の中央片側一か所であるので、異物が嵌合部に進入することによって生じる化学変化や摺動部の動作不良を最小限とすることができる」との記載があることが認められる。

特許発明の効果は、特許請求の範囲に記載された当該発明の構成及び特許請求の範囲に記載することを要しない程に自明の技術的事項によって奏することができるものであるところ、昭和六一年補正後の特許請求の範囲に記載された発明は、単に版胴の小径部に円筒が嵌合されているのではなく、「版胴の小径部に、一端に軸を固着した円筒を版胴に対して常時回転および軸方向に摺動自在に嵌合し、」、円筒の軸を「駆動側であるブランケット胴に対して・・・回転の位相を変更可能に連動連結し、この連動連結部に上記回転の位相を別個に変更するための機構を連係し、また・・・円筒の軸・・・に・・・軸方向へ移動するための機構を連係してなる」ものであり、しかも「版胴の軸と円筒の軸とをそれぞれフレームに対して軸方向に移動自在に支承する」ものであることから、開口部を版胴の中央片側一か所として、前記の効果を奏することのできる構成とはどのような構成であるのか必ずしも明らかではなく、発明の詳細な説明中の当該発明一般についての説明によっても明らかではない。

(3)  そこで、出願公告時の明細書中の実施例の記載及び図面並びに昭和六一年補正後の明細書中の実施例の記載及び図面について検討するに、出願公告時以降、平成元年補正後の現在まで、図面は番号が加入されたのみで実質的に変更がなく、また、実施例についても、説明に変更はあるものの開示されている構成そのものには実質的には変更がないことは前記(六)のとおりであるから、前記(五)に認定したところと実質的には同じものである。

即ち、円筒15'には、右円筒15'に接する部分では円筒の外径とほぼ同径で外方向へ順次段階的に細くなる一部中空の軸21が数個のねじ22で固定されており、基胴の小径部側の支持軸154は、軸21の中空部に嵌合され、該小径部側の支持軸154は、軸21の中空部の周壁に支持されて回転の軸となり、基胴の自重及び荷重は、小径部側では、支持軸154の負荷が、軸21、軸21を保持するローラベヤリング24、スリーブ23を介してフレーム5に担持される構成を含む実施例が記載されている。

右実施例では、円筒のフレーム側端部は右認定のような態様で軸21に固定されることにより開口部とならず、円筒の中央片側一か所のみが開口部となっており、昭和六一年補正後の明細書記載の前記効果を奏することができ、また、一端に軸21が固定された円筒15'と基胴との関係をみると、軸21が固定された円筒15'は、常時回転方向及び軸方向の摺動に束縛や障害がなく摺動自在に小径部に嵌合されている。

そして、右実施例においては「版胴の小径部に、一端に軸を固着した円筒を版胴に対して常時回転および軸方向に摺動自在に嵌合し、」その円筒の軸を駆動側のブランケット胴に連動連結し、また、回転の位相を変更するための機構、軸方向へ移動するための機構を連係し、他方、円筒の軸及び版胴の、小径部の支持軸を独立した回転の軸として支持し、基胴の自重及び荷重を最終的にはフレームで担持することによって、明細書記載の効果を奏するための具体的構成が開示されており、その他に具体的構成は開示されていない。

(4)  右(1)ないし(3)に判断したところによれば、昭和六一年補正後の特許請求の範囲に記載された発明において、発明の詳細な説明に記載された効果の一つを奏することのできる開口部を版胴の中央片側一か所とするための構成は、小径部に嵌合する円筒の一端に軸が固着していることであり、逆に言えば円筒の一端への軸の固着とは、円筒の一端に開口部を設けないような態様で、かつ、軸を固定した円筒が版胴の小径部に対し、常時回転方向及び軸方向に束縛や障害なく摺動する状態に、固定した形で取り付けることを意味するものと解するのが相当である。

そして、そのようなものである以上、実施例として開示されているように、基胴の小径部側の支持軸は、円筒の一端に固着した軸の中空部に嵌合され、該小径部の支持軸は右軸の中空部の周壁に支持されて回転の軸となり、基胴の自重及び荷重は、小径部側では支持軸の負荷が軸を介してフレームに担持される構成と認められる。

(九)  右(二)ないし(八)に判断したところに基づいて、本件発明の構成要件E中の「円筒には・・・軸を固着し、」及び「該軸を・・・フレームに・・・支承させる」の意味を検討すると、右の「円筒には・・・軸を固着し、」とは、円筒のフレーム側の一端に開口部を設けないような態様で軸を固定し、かつ、軸を固定した円筒が版胴の小径部に対し常時回転方向及び軸方向に束縛や障害なく自在に摺動する状態に、固定した形で取り付けることであり、また、前記「該軸を・・・フレームに・・・支承させる」とは、円筒に固着された軸が直接フレームに支持されるとともに、軸の中空部に嵌合された小径部側の支持軸を支持し、小径部の支持軸の負荷及び自らの負荷がフレームに支えられることを意味するものと認められる。

なお、右のように解するのは、本件明細書の記載、出願経過を参酌した結果であって、本件明細書中に実施例として記載された構成に限定する趣旨でないことを付言する。

(一〇)  これに対しイ号物件においては、円筒15'の端部に固着されたベアラにはピン39が固着され、ピン39は、小径部152及び軸21の軸芯方向と直交するように穿った小径部152の穴154b及び軸21の穴に、小径部152の穴154bの内径よりもピン39の外径が概ね一〇ミリメートル小さい状態で、また軸21の穴には間隙を設けず、それぞれ貫通しており、軸21の一側は支持軸154及び版胴小径部152の芯部に穿った穴154aにそれぞれ間隙を保って挿入されていて、版胴の穴154aが接しているニードルベアリング143に接しているとともに、軸21の他の一側は小径部152の端部に近接したフレーム5の穴を通ってフレーム5の外へ突出しているのであるから、軸21は円筒15'のフレーム側の一端に開口部を設けないような態様で固定されているとはいえず、また、円筒15'は、軸21を固定した状態では、小径部152に穿たれた穴154bの内径とピン39の外径との概ね一〇ミリメートルの差が許容する限度でのみ小径部152に対し回転方向及び軸方向に摺動可能ではあるが、その僅かな範囲に限られるものであり、束縛や支障なく自在に摺動できるものではないから、イ号物件は、右(九)に判断した本件発明の構成要件Eの「円筒には・・・軸を固着し、」に該当しない。

また、イ号物件においては、軸21は、小径部側の支持軸154の中を貫通し、小径部の端部に近接したフレーム5の穴を通ってフレーム5の外へ突出していて、ニードルベアリング54、部材53、32を介してフレーム5に支えられており、小径部側の支持軸154は、直接、ローラーベアリング100、部材32を介してフレーム5に支えられており、支持軸154にかかる負荷は、軸21にかかることなく、フレーム5に担持され、軸21は、小径部側の支持軸154を支持するものでなく、支持軸154にかかる負荷をフレーム5に伝える役割を担っていないものと認められるから、イ号物件の軸21がフレーム5に支持されている状態は、本件発明の構成要件E中の「該軸を・・・フレームに・・・支承させる」に該当するものではない。

したがって、右の二点において、イ号物件は、本件発明の構成要件Eを充足しないものと認められる。

また作用効果の面をみると、イ号物件では、軸21が小径部側の支持軸154にかかる負荷を負担しないため、見当調整のために軸21を通じて小径部側の版胴となる円筒15'を円周方向及び軸方向に調整する際、その操作が本件発明に比べて容易であるという作用効果を奏するものと認められるから、この点から見て、本件発明と実質的に同一と評価される関係にあるものでもない。

3  以上のとおりであるから、イ号物件は、本件発明の技術的範囲に属するものとは認められない。

四1  ロ号物件の特定について

(一)  ロ号物件目録中二のロ号物件の構成2について

当事者間にロ号物件の図面として争いがない別紙ロ号物件目録第5図によれば、ロ号物件目録中二のロ号物件の構成2の部分は、より正確に表現すれば、前記二1(一)にイ号物件について認定したとおりであると認められる。

(二)  ロ号物件目録中二のロ号物件の構成4、5について

当事者間にロ号物件の図面として争いがない別紙ロ号物件目録第6図、前記乙第五号証の一、二、乙第一〇号証、乙第一一号証、乙第一九号証ないし乙第二一号証、証人岡野保史の証言によって成立の認められる乙第二二号証、証人濃明晃、同濱田征志朗、同川崎宏治、同岡野保史の各証言によれば、ピン39は、支持軸154及び軸21の軸芯方向と直交するように穿った支持軸154の穴154b及び軸21の穴に、穴154bの内径よりもピン39の外径が概ね一〇ミリメートル小さい状態で、また軸21の穴には、その内径よりもピン39の外径が〇・〇一ミリメートルないし〇・〇四ミリメートルプラスマイナス〇・〇二ミリメートル小さい状態で、貫通しており、支持軸154及び版胴小径部152の芯部に穿った穴154aにそれぞれ間隙を保って挿入された軸21は、前記ピン39と前記のような寸法の関係で、摺動ないし回動可能に連結されている。

(三)  ロ号物件目録中二のロ号物件の構成6について

ロ号物件目録第5図及び第6図によれば、ロ号物件目録中二のロ号物件の構成6の部分は、前記二1(三)にイ号物件について認定したところと同じであると認められる。

(四)  ロ号物件目録中二のロ号物件の構成7について

ロ号物件目録中二のロ号物件の構成7は、四行目の「連絡し、かつ、円筒15'に固着した軸21は、」とある部分を除いて当事者間に争いがなく、右部分は右(二)に認定判断したところによれば、「連絡し、かつ、円筒15'にピン39をもって摺動ないし回動可能に連結された軸21は、」とするのが相当であると認められる。

(五)  ロ号物件目録中二のロ号物件の構成1、3及び右(一)ないし(四)に判断した個所を除くその余のロ号物件目録の記載は当事者間に争いがない。

2  ロ号物件の構成の分説について

右1によれば、ロ号物件の構成は、本件発明の構成要件AないしHに対応して、次のように分説できると認められる(以下、各々のロ号物件の構成を、「ロ号物件の構成a」、「ロ号物件の構成b」などということがある。)。

a  版胴3ないし3〓に装着された版の印刷図柄が、版胴3ないし3〓の駆動源であるブランケット胴2ないし2〓に転写された後、ブランケット胴2ないし2〓と圧胴1との間を通る印刷用紙に印刷される輪転印刷機の版胴装置である。

b  版胴3ないし3〓は、大径部151を一方の版胴部とし、大径部151に段状に連続した小径部152に円周方向及び軸方向に摺動可能に嵌合する円筒15'を他方の版胴部として、左右のフレーム4と5の間に配置されるよう構成されている。

c  大径部151及び小径部152の各端部に、各端部に近接したフレーム4ないし5に至る支持軸153及び154をそれぞれ設けている。

d  大径部側の支持軸153は、大径部151の端部に近接したフレーム4にローラーベアリング90にて回転可能に支持され、同ローラーベアリング90の軸方向移動を拘束する部材31により軸方向に移動可能にするという手段により円周方向及び軸方向に移動可能に支承させると共に、更に該フレーム4の外へと突出させてある。

e  小径部152の支持軸154は、小径部152の端部に近接したフレーム5にローラーベアリング100にて回転可能に支持され、同ローラーベアリング100の軸方向移動を拘束する部材32により軸方向に移動可能にするという手段により円周方向及び軸方向に移動可能に支承されている。

f  前記他方の版胴部をなす円筒15'の端部に固着されたピン受座にはピン39が固着されている。ピン39は、支持軸154及び軸21の軸芯方向と直交するように穿った支持軸154の穴154b及び軸21の穴に、穴154bの内径よりもピン39の外径が概ね一〇ミリメートル小さい状態で、また軸21の穴には、その内径よりもピン39の外径が〇・〇一ミリメートルないし〇・〇四ミリメートルプラスマイナス〇・〇二ミリメートル小さい状態で、それぞれ貫通している。軸21の一側は支持軸154及び版胴小径部152の芯部に穿った穴154aにそれぞれ間隙を保って挿入されていて、版胴の穴154aが接しているニードルベアリング143に接していると共に、軸21の他の一側は小径部152の端部に近接したフレーム5の穴を通ってフレーム5の外へ突出していて、フレーム5が接している部材32が固着されている部材53が接しているところのニードルベアリング54に接しており、軸21は円周方向及び軸方向に移動可能である。

g  大径部側の支持軸153は、フレーム4の外側において駆動源であるブランケット胴2ないし2〓の軸901によって駆動されうるよう伝動連結されると共に、軸方向調整機構903及び円周方向調整機構904に連絡し、かつ前記軸21は、フレーム5の外側において同じく駆動源であるブランケット胴2ないし2〓の軸902によって駆動されうるよう伝動連結されるとともに、軸方向調整機構903'及び円周方向調整機構904'に連絡させてある。

h  一方の版胴部と他方の版胴部とが、それらの同一駆動源であるブランケット胴2ないし2〓に対して、それぞれ個別に回転位相と軸方向の位置を調整されるようにしてある

i  輪転印刷機における版胴装置。

五  ロ号物件の構成要件該当性について

1  右四に認定したロ号物件の構成と、本件発明の構成要件とを対比すると、ロ号物件の構成a、b、c、d、h、iは、それぞれ本件発明の構成要件A、B、C、D、G、Hに該当するものと認められ、ロ号物件の構成gは、本件発明の構成要件Fの内、前記軸が「円筒に固着した」ものである点を除くその余の部分に該当すると認められる。

2  原告は、ロ号物件の構成fが本件発明の構成要件Eを、充足すると主張する。

本件発明の構成要件E中の「円筒には・・・軸を固着し、」及び「該軸を・・・フレームに・・・支承させる」の意味は、前記三2(九)に認定判断したとおりである。

これに対し、ロ号物件では、円筒15'の端部に固着されたピン受座にはピン39が固着され、ピン39は、支持軸154及び軸21の軸芯方向と直交するように穿った支持軸154の穴154b及び軸21の穴に、支持軸の穴154bの内径よりもピン39の外径が概ね一〇ミリメートル小さい状態で、また軸21の穴には、その内径よりもピン39の外径が〇・〇一ミリメートルないし〇・〇四ミリメートルプラスマイナス〇・〇二ミリメートル小さい状態で、それぞれ貫通しており、軸21の一側は支持軸154及び版胴小径部152の芯部に穿った穴154aにそれぞれ間隙を保って挿入されていて、版胴の穴154aが接しているニードルベアリング143に接していると共に、軸21の他の一側は小径部152の端部に近接したフレーム5の外へ突出しているのであるから、軸21は円筒15'のフレーム側の一端に開口部を設けないような態様で軸を固定されているとはいえず、また、円筒15'は軸21と連結した状態では、支持軸154に穿たれた穴154bの内径とピン39の外径との約一〇ミリメートルの差が許容する限度でのみ小径部152に対し回転方向及び軸方向に摺動可能ではあるが、その僅かな範囲に限られるものであり、束縛や障害なく自在に摺動できるものではないから、ロ号物件は本件発明の構成要件Eの「円筒には・・・軸を固着し、」を充足しない。

また、ロ号物件においては、軸21は、小径部側の支持軸154の中を貫通し、小径部の端部に近接したフレーム5の穴を通ってフレーム5の外へ突出していて、ニードルベアリング54、部材53、32を介してフレーム5に支えられており、小径部側の支持軸154は、直接、ローラーベアリング100、部材32を介してフレーム5に支えられており、支持軸154にかかる負荷は、軸21にかかることなく、フレーム5に担持され、軸21は、小径部側の支持軸154を支持するものでなく、支持軸154にかかる負荷をフレーム5に伝える役割を担っていないと認められるから、ロ号物件の軸21がフレーム5に支持されている状態は、本件発明の構成要件E中の「該軸を・・・フレームに・・・支承させる」に該当するものではない。

したがって右の二点において、ロ号物件は、本件発明の構成要件Eを充足しないものと認められる。そして作用効果の面において、イ号物件同様、軸21が、小径部側の支持軸154にかかる負荷を負担しないため、軸21による見当調整が本件発明に比べて容易であるという本件発明にない作用効果を奏するものと認められる。

3  以上のとおりであるから、ロ号物件も、本件発明の技術的範囲に属するものとは認められない。

六  よって原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西田美昭 裁判官 大須賀滋 裁判官櫻林正己は転補のため署名押印できない。 裁判長裁判官 西田美昭)

第2部門(4) 特許法第64条の規定による補正の掲載 平1.11.28発行

昭和52年特許願第47812号(特公昭59-31467号、昭59.8.2発行の特許公報2(4)-47〔327〕号掲載)については特許法第64条の規定による補正があつたので下記のとおり掲載する。

特許第1512923号

Int.Cl.4B 41 F 13/12 識別記号 庁内整理番号7318-2C

1 「特許請求の範囲」の項を「1 版胴に装着された版の印刷図柄が、版胴の駆動源であるブランケツト胴に転写された後、ブランケツト胴と圧胴との間を通る印刷用紙に印刷される輪転印刷機の版胴装置において、

前記版胴は、大径部を一方の版胴部とし、大径部に段状に連続した小径部に円周方向および軸方向に摺動可能に嵌合する円筒を他方の版胴部として、左右のフレーム間に配置されるよう構成し、

前記大径部および小径部の各端部に、各端部に近接したフレームに至る支持軸をそれぞ設け、

大径部側の前記支持軸を前記大径部の端部に近接したフレームに円周方向および軸方向に移動可能に支承させると共に、更に該フレーム外へと突出させ、

前記他方の版胴部をなす円筒には、小径部側の前記支持軸に対し円周方向および軸方向に移動可能な軸を固着し、該軸を前記小径部の端部に近接したフレームに円周方向および軸方向に移動可能に支承させる共に、更に該フレーム外へと突出させ、

大径部側の前記支持軸と、円筒に固着した前記軸とをそれぞれフレームの外側において、駆動源のブランケツト胴の左右軸によつて各々駆動されうるよう伝動連結すると共に、それぞれの軸方向調整機構および円周方向調整機構に連絡させ、

前記一方の版胴部と前記他方の版胴部とが、それらの同一駆動源であるブランケツト胴に対して、それぞれ個別に回転位相と軸方向の位置を調整されるようにしたことを特徴とする輪転印刷機における版胴装置」と補正する。

2 「発明の詳細な説明」の項を「本発明は、輪転印刷機における版胴装置で、特に1本の版胴において軸方向左右に振分けてそれぞれ別個に版を取付けることができるようにした版胴装置に関するものである。

この種の版胴装置は、版を一枚にすると版幅が広くなりすぎ、版が大きくなつてその取扱いが困難であつたり、また工場の製版能力がなかつたりする場合に、版を2列にして版の大きさを半分にして上記問題を解決したものであるが、この場合一般には左右の版の取付部は円周上である距離だけ位相をずらせて左右の版の各取付部に同時に印圧が抜けないようにして印刷紙の安定を図つている。

ところで従来の上記版胴装置の左右の各版のそれぞれの見当合せは、左側または右側のどちらかの側のみを見当合せ装置に従つて合わせることができるが他の側は版を版胴に取付けた状態では製版上の精度誤差や版胴の版の装着装置の製作誤差により各色刷の場合に見当ずれがまぬがれない。そこで機械を停止して版の装着装置をゆるめて版を手で移動するとか、調整機構を手動で動かして行なうために見当合せに非常に多くの時間と手間を要した。

本発明は以上のことにかんがみなされたもので、軸方向左右に振り分けた版装着部のそれぞれを版を取付けた状態で、しかも運転中に個々別別に円周方向および軸方向に微動調整を行なうことができ、これにより極めて容易にかつ短時間内で版の見当合せを行なうことががきるようにした輪転印刷機における版胴装置を提供しようとするものである。

以下その構成を図面に示した実施例に基づいて説明する。

第1図は一般的なオフセツト多色刷転輪印刷機の印刷胴の配例を示すもので、フレーム5の中央の共通圧胴1へ印刷用紙7はガイドロール6を経て巻かれて矢印の方向へ走行する。2、2’、2”、2〓はブランケツト胴であり、3、3’、3”、3〓は版胴である。版胴から印刷図柄はブランケツト胴へ転写されて共通圧胴1に巻かれた印刷用紙7上に印刷する。

第2図は上記多色刷輪転印刷機の駆動部を示したもので、フレーム4に軸受9で支承された駆動元軸8の先端に固着したベベルギヤ10と共通圧胴1のベベルギヤ11との噛合によりこの共通圧胴1が駆動されるようになつている。共通圧胴1の軸端にはヘリカルギヤ12が取付けられていて、ブランケツト胴2、2’、2”、2〓および版胴3、3’、3”、3〓の軸端に取付けられているヘリカルギヤ13、13’、13”、13〓および14、14’、14”、14〓が順次噛合されていて共通圧胴1のギヤ12が駆動元になつている。

上記各版胴3、3’、3”、3〓はそれぞれ同一の構成になつており、その1つの版胴3を実施例として示す。

第5図で示すように版胴3は、機械の中心において連続している右側の大径部15、および左側の小径部152とよりなる基胴が基本の構成を成している。そしてこれら大径部151および小径部152の端部にはそれぞれが隣接するフレーム4および5まで至る支持軸153および154が設けられている。さらに右側の大径部151は右版胴部を構成していて、その外周面には版16が装着されるようになつており、一方、左側の小径部152の外周面には円筒15’が、小径部の外周面に対して円周方向および軸方向に摺動可能に嵌合している。この円筒15’は左版胴部を構成しており、この円筒15’の外面には版17が装着されるようになつている。

この版16、17は、第3図、第4図に示すように、それぞれの取付部18、19が互いに位相をずらされている。前記円筒15’の内面には複数個の溝20が削設してあつて円筒15’の小径部152に対する嵌合抵抗が小さくなるようにされている。

円筒15’の端部は、基胴の一端部(左端部)にある支持軸154に円周方向および軸方向に移動自在に設けた軸21に、数個のねじ22で固定されていて、この軸21はフレーム5に嵌合されたスリーブ23に装着されたローラベヤリング24にて保持され駆動軸部を形成している。基胴の他端部(右端部)の支持軸153はフレーム4に嵌合したスリーブ25、26に装着されたローラベヤリング27によつて保持され駆動軸部を形成している。

前記の支持軸153の端部にブランケツト胴2の一端に固着した従動側ヘリカルギヤ13に噛合するヘリカルギヤ14が固着してある。またブランケツト胴2の他端には前記ヘリカルギヤ13と同寸法のヘリカルギヤ28が固着してある。

上記軸21にはエキスターナルギヤ29がキーおよびナツトにて固着してあり、このエキスターナルギヤ29にインターナルギヤ30が嵌合してある。インターナルギヤ30はギヤカツプリング31に固着されていて、その反対面には抜け止め板32が取付けられている。ギヤカツプリング31には前記駆動側のヘリカルギヤ28に噛合する従動側のヘリカルギヤ33が固着してある。この従動側ヘリカルギヤ33は前記支持軸153の端部に固着した従動側ヘリカルギヤ14と同寸法となつている。前記従側のヘリカルギヤ33はエキスターナルギヤ29とインターナルギヤ30とにより軸21に対して軸方向に移動自在にして回転方向に係合され、これにより軸21は駆動側および従動側のヘリカルギヤ28、33により、基胴とは別個に回転駆動されるようになつている。

ギヤカツプリング31には軸21に嵌合する円筒部材34がボルトで固着してあり、この円筒部材34にアンギユラーコンタクトベアリング35を介して外周にギヤを設けた回転スリーブ36が嵌合支承されている。前記アンギユラーコンタクトベアリング35の外輪および内輪は押え金37、38で固定されている。回転スリーブ36のギヤのない外周部にはねじを有し、これがブラケツト39に固着したリング40に螺合している。なお、ブラケツト39はフレーム5に固着している。軸21とフレーム5と嵌合において、軸21に嵌合しているローラベアリング24はカラー41および座金42を介してナツト43で軸21に固定されていて、外周はフレーム5に固着たスリーブ23に軸方向に摺動できるように嵌合してある。44はシムである。

回転スリーブ36のギヤにはギヤ45が噛合している。ギヤ45は軸46に固着してある。軸46はブラケツト39、47に支承されている。この軸46の他端部には他のギヤ48が固着されており、このギヤ48に、正逆転するモータ49にて駆動される駆動ギヤ49、が噛合してある。またこの駆動ギヤ49、にはポテンシヨメータ等の回転数検知装置50に結合した検知ギヤ51が噛合してある。

一方前記軸21の軸端には軸受部材52が同心伏に固着してあり、これに軸53の一端部が回転自在に、かつ軸方向には係合して嵌合してある。軸53はブラケツト54に固定されたリング55に嵌合され、かつキー56にて回転方向には係合し、軸方向に摺動自在になつている。軸53の他端部にはねじ57が設けてあり、このねじ57にギヤ58およびこれに固着されたゆるみ止め金具59が螺合されている。ギヤ58およびゆるみ止め金具59の端面はスラストベアリングを介してリング55およびブランケツト54の蓋体60に軸方向に支承されている。上記ギヤ58は正逆転するモータ61にて駆動されるギヤ62に噛合してある。またこのギヤ58にはポテンシヨンメータ等の回転数検知装置63に結合した検知ギヤ64が噛合している。

また第5図において支持軸153の軸承部は軸21の軸承部と同様な構造となつており、このため右版胴部である大径部151を一部とする基胴は支持軸153を経由して、左版胴部である円筒15’と同様に、円周方向および軸方向の微動調整がされるようになつている。

上記構成において、駆動軸8を回転することによりベベルギヤ10、11を介して共通圧胴1が回転され、これによりブランケツト胴2が回転される。このブランケツト胴2の回転により大径部151を一部とする基胴はヘリカルギヤ13、14の噛合により回転駆動される。また基胴の小径部152に嵌合した円筒15’は、もブランケツト胴2の他端側に設けた駆動側のヘリカルギヤ28、従動側のヘリカルギヤ33、ギヤカツプリング31、インターナルギヤ30、エキスターナルギヤ29を介して軸21と共に前記大径部151を一部とする基胴と同一回転数で回転駆動される。

このときにおいて、円筒15’を大径部151に対して円周方向に微動調整する場合には回転スリーブ36を回転する。

すなわち、モータ49を駆動してギヤ49、48、45を介して回転スリーブ36が回転されると、この回転スリーブ36はねじによりブラケツト39に対して軸方向に移動され、この回転スリーブ36に軸方向に結合された従動側のヘリカルギヤ33が軸方向に移動される。かくすると、このヘリカルギヤ33と駆動側のヘリカルギヤ28との噛合位置が軸方向にずれて、従動側のヘリカルギヤ33が駆動側に対してヘリカルアングルの働きにより相対的に円周方向に移動することになり、従つてこの従動側のヘリカルギヤ33と回転方向に係合した円筒15’は大径部151に対して円周方向に相対移動されて、相対的回転の位相が変更される。この移動方向はモータ49の回転方向によりきめられる。

一方円筒15’を大径部151に対して軸方向に微動調整する場合には、軸53のねじ57に螺合したギヤ58をモータ61にて回転する。かくするとこのギヤ58は軸方向に係止されているから軸53がねじ57により軸方向に移動され、これにより、この軸53に軸方向に係合した軸21を介して円筒15’がに対して軸方向に移動される。

上記円周方向および軸方向の移動は版胴の回転中において、互に無関係に行われる。

またそれぞれの移動量はポテンシヨメータ等の回転数検知装置50、63を介して規制する。

なおそれぞれの移動操作の駆動源はモータに限ることなく、手動ハンドルによつてもよい。また回転スリーブ36を回転させるギヤ45の軸46を駆動するにはギヤによることなくチエンにて連結してもよい。

第7図は、共通圧胴を用いない単色機を複数台連結して多色刷する例を示す。共通圧胴を用いない単色機の場合も全く同様な機構により版胴3A、3A’、3B、3B’、3C、3C’……のそれぞれの軸方向の半分を個個別別に微動調整することができる。2A、2A’、2B、2B’……はブランケツト胴、7'は印刷用紙である。

本発明は以上詳述したように、版胴に装着された版の印刷図柄が、版胴の駆動源であるブランケツト胴に転写された後、ブランケツト胴と圧胴との間を通る印刷用紙に印刷される輪転印刷機の版胴装置において、前記版胴は、大径部を一方の版胴部とし、大径部に段状に連続した小径部に円周方向および軸方向に摺動可能に嵌合する円筒を他方の版胴部として、左右のフレーム間に配置されるよう構成し、前記大径部および小径部の各端部に、各端部に近接したフレームに至る支持軸をそれぞれ設け、大径部側の前記支持軸を前記大径部の端部に近接したフレームに円周方向および軸方向に移動可能に支承させると共に、更に該フレーム外へと突出させ、前記他方の版胴部をなす円筒には、小径部側の前記支持軸に対し円周方向および軸方向に移動可能な曲を固着し、該軸を前記小径部の端部に近接したフレームに円周方向および軸方向に移動可能に支承させる共に、更に該フレーム外へと突出させ、大径部側の前記支持軸と、円筒に固着した前記軸とをそれぞれフレームの外側において、駆動源のブランケツト胴の左右軸によつて各々駆動されうるよう伝動連結すると共に、それぞれの軸方向調整機構および円周方向調整機構に連絡させ、前記一方の版胴部と前記他方の版胴部とが、それらの同一駆動源であるブランケツト胴に対して、それぞれ個別に回転位相と軸方向の位置を調整されるように、輪転印刷機における版胴装置を構成したから、通常の運転時には各版胴部は共通の駆動源であるブランケツト胴によつてそれぞれ同連で駆動されることから、あたかも一本の版胴が回転しているのと同じ結果が得られるが、一方の版を他方の版に対して軸方向または円周方向に微調整する必要がある時は、この一方の版を取付けている版胴部をブランケツト胴に対して軸方向または円周方向に調整することにより、他方の版とは全く独立的な調整をすることが可能である。

このように本発明によれば、本来、版を一列しかもたない版胴の版調整機構はその調整に際して版胴を動かす方法によるため、版胴上に左右二列の版が取付けられ左右それぞれの版の独立的な調整が必要な版胴装置には使用できないと考えられていたものが、利用可能となり、従来において経験の積まれた調整装置をそのまま利用できることになり、コスト的にも有利な上、信頼性が高い。またこの調整機構によれば版胴上で版を微動調整する型式のものと異なり、版胴に版の調整のための動力伝達機構を配する必要がないし、版の版胴に対する取付けも調整可能な取付けを考慮する必要がない。そのため版胴の半径方向的には調整筒が存在しないことから径を太く設計しえ、また軸方向的には微動調整機構をフレームの外側に配することができたから、フレームスパンを狭くすることができ、版胴の機械的強度を大幅に高める効果がある。

また版胴自体の構造は、基本的には基胴と円筒の2部材のみから構成しているから、部品点数を最小限としえた上、複雑な機械加工を最小限とすることができる。さらに基胴の両端の支持軸はフレームに至るよう構成されており、また円筒に固着された軸もフレームに至つているから、版胴全巾に加わる印圧等のラジアル荷重に対しても、各版胴部はたとえば微動調整中であつても、あたかも一体ものの版胴のように安定して両フレームによつて支持されることができる。加うるに本発明においては、各版胴部の駆動が共通の駆動源であるブランケツト胴の左右側からそれぞれ同速度で駆動される構造となつていることから、一方側からのみ駆動される版胴に比較して、軸応力の発生が少なく、バランス良く駆動されることとなる上、回転駆動自体は同速でなされるものの、各版胴部は軸系としては独立しているから左版胴部又は右版胴部のいずれか一方に生じた機械的擾乱が、質量の大きいブランケツト胴側に伝達吸収され易くなり、他方の版胴部に与える影響が小さくなるという相乗的な効果も奏されるものである。」と補正する。

3 「図面の簡単な説明」の項を「第1図はオフセツト多色刷輪転印刷機の印刷胴の配列図、第2図はその駆動系統図、第3図は版の巻き込口の関係を示す版胴の断面図、第4図はその正面図、第5図はこの発明の実施例を示す一部破断正面図、第6図は要部の構造説明図である。第7図は単色刷機の4台結の印刷胴の側面図である。

2はブランケツト胴、3は版胴、153は版胴の支持軸、15’は円筒、21は円筒の軸。」と補正する。

4 第4~5頁「第3、4、5、6図」を「」と補正する。

第3図

<省略>

第4図

<省略>

第5図

<省略>

第6図

<省略>

<19>日本国特許庁(JP) <11>特許出願公告

<12>特許公報(B2) 昭59-31467

<51>Int.Cl.3B 41 F 13/12 識別記号 庁内整理番号6763-2C <24><44>公告 昭和59年(1984)8月2日

発明の数 1

<54>輪転印刷機における版胴装置

<21>特願 昭52-47812

<22>出願 昭52(1977)4月27日

<65>公開 昭53-134507

<43>昭53(1978)11月24日

<72>発明者 渡辺静一

横浜市港南区最戸1-23-16

<71>出願人 株式会社東京機械製作所

東京都港区芝5丁目26番24号

<74>代理人 弁理士 米原正章 外1名

<56>参考文献

特公 昭27-609(JP、B1)

特公 昭45-41406(JP、B1)

特開 昭47-11211(JP、A)

特開 昭51-8005(JP、A)

<57>特許請求の範囲

1 印刷機の版胴の軸方向の一側部を段状の小径にし、この小径部に、一端に軸を固着した円筒を版胴に対して回転および軸方向に摺動自在に嵌合し、この版胴と円筒の軸とをそれぞれフレームに対して軸方向に移動自在に支承すると共に、上記版胴と円筒の軸とを駆動側であるブランケツト胴に対してそれぞれ別別に、かつ駆動側のブランケツト胴の回転に対して版胴と円筒の軸のそれぞれの回転の位相を変更可能に連動連結し、この連動連結部に上記回転の位相を別個に変更するための機構を連係し、また上記版胴および円筒の軸とにこれらを別個に軸方向へ移動するための機構を連係してなることを特徴とする輪転印刷機における版胴装置。

発明の詳細な説明

本発明は、輪転印刷機における版胴装置で、特に1本の版胴において軸方向左右に振分けてそれぞれ別個に版を取付けることができるようにした版胴装置に関するものである。

この種の版胴装置は、版を1枚にすると版幅が広くなりすぎ、版が大きくなつてその取扱い困難であつたり、また工場の製版能力がなかつたりする場合に、版を2列にして版の大きさを半分にして上記問題を解決したものであるが、この場合一般には左右の版の取付部は円周上である距離だけ位相をずらせて左右の版の各取付部に同時に印圧が抜けないようにして印刷紙の安定を図つている。

ところで従来の上記版胴装置の左右の各版のそれぞれの見当合せは、左側または右側のどちらかの側のみを見当合せ装置に依つて合わせることができるが他の側は版を版胴に取付けた状態では製版上の精度誤差や版胴の版の装着装置の製作誤差により各色刷の場合に見当ずれがまぬがれない。そこで機械を停止して版の装着装置をゆるめて版を手で移動するとか、調整機構を手動で動かして行なうために見当合せに非常に多くの時間と手間を要した。

本発明は上記のことにかんがみなされたもので、軸方向左右に振分けた版装着部のそれぞれを版を取付けた状態で、しかも運転中に個々別々に円周方向および軸方向に微動調整を行なうことができ、これにより極めて容易にかつ短時間内で版の見当合せを行なうことができるようにした輪転印刷機における版胴装置を提供しようとするものである。

以下その構成を図面に示した実施例に基づいて説明する。

第1図は一般的なオフセット多色刷輪転印刷機の印刷胴の配列を示すもので、フレーム5の中央の共通圧胴1へ印刷用紙7はガイドロール6を経て巻かれて矢印の方向へ走行する。2、2’、2”、2〓はブランケツト胴であり、3、3’、3”、3〓は版胴である。版胴から印刷図柄はブランケツト胴へ転写されて共通圧胴1に巻かれた印刷用紙7上に印刷する。

第2図は上記多色刷輪転印刷機の駆動部を示したもので、フレーム4に軸受9で支承された駆動元軸8の先端に固着したベベルギ10と共通圧胴1のベベルギア11との噛合によりこの共通圧胴1が駆動されるようになつている。共通圧胴1の軸端にはヘリカルギヤ12が取付けられていてブランケツト胴2、2’、2”、2〓および版胴3、3’、3”、3〓の軸端に取付けられているヘリカルギヤ13、13’、13”、13〓および14、14’、14”、14〓が次噛合されていて共通圧胴1のギヤ12が駆動元になつている。

上記各版胴3、3’、3”、3〓はそれぞれ同一の構成になつており、その1つの版胴3を実施例として示す。この版胴3は機械の中心で段状に形成されており、小径側に外径寸法を大径側の外径と一致する円筒15が回転および摺動自在に嵌合してある。版胴3および円筒15の外周には版16、17が取付けられている。この版16、17は第3図、第4図に示すようにそれぞれの取付部18、19は互いに位相がずらされている。上記円筒15の内面には各数個の溝20が削設してあつて円筒15が版胴3に対しての嵌合抵抗が小さくなるようにしてある。円筒15の端部は版胴3の一端を支持する軸21に数個のねじ22で固定されている。軸21はフレーム5に嵌合されたスリーブ23に装着されたローラベヤリング24にて保持されている。版胴3の他端部はフレーム4に嵌合したスリーブ25、26に装着されたローラベヤリング27によつて保持されている。

版胴3の大径側の端部にブランケツト胴2の一端に固着したヘリカルギヤ13に噛合するヘリカルギヤ14が固着してある。またブランケツト胴2の他端には上記ヘリカルギヤ13の同寸法のヘリカルギヤ28が固着してある。

上記軸21にはエキスターナルギヤ29がキーおよびナツトにて固着してあり、このエキスターナルギヤ29にインターナルギヤ30が嵌合してある。インターナルギヤ30はギヤカツプリング31に固着されていて、その反対面には抜け止め板32が取付けられている。ギヤカツプリング31には上記駆動側のヘリカルギヤ28に噛合ずる従動側のヘリカルギヤ33が固着してある。この従動側ヘリカルギヤ33は版胴3の一端に固着した従動側のヘリカルギヤ14と同寸法になつている。上記従動側のヘリカルギヤ33はエキスターナルギヤ29とインターナルギヤ30とにより軸21に対して軸方向に移動自在にして回転方向に係合され、これにより軸21は駆動側および従動側のヘリカルギヤ28、33により、版胴3とは別個に回転駆動されるようになつている。

ギヤカツプリング31には軸21に嵌合する円筒部材34がボルトで固着してあり、この円筒部材34にアンギユラーコンタクトベアリング35を介して外周にギヤを設けた回転スリーブ36が嵌合支承されている。上記アンギユラーコンタクトベアリング35の外輪および内輪は押へ金37、38で固定されている。回転スリーブ36のギヤのない外周部にはねじを有し、これがブラケツト39に固着したリング40に螺合している。なおブラケツト39にはフレーム5に固着されている。軸21とフレーム5との嵌合において、軸21に嵌合しているローラベアリング24はカラー41および座金42を介してナツト43で軸21に固定されていて、外周はフレーム5に固着したスリーブ23に軸方向に摺動できるように嵌合してある。44はシムである。

回転スリーブ36のギヤにはギヤ45が噛合している。このギヤ45は軸46に固着してある。軸46はブラケツト39、47に支承されている。この軸46の他端部には他のギヤ48が固着されており、このギヤ48に正逆転するモータ49にて駆動される駆動ギヤ49aが噛合してある。またこの駆動ギヤ49aにはポテンシヨメータ等の回転数検知装置50に結合した検知ギヤ51が噛合してある。

一方前記軸21の軸端には軸受部材52が同心状に固着してあり、これに軸53の一端部が回転自在に、かつ軸方向には係合して嵌合してある。軸53にはブラケツト54に固定されたリング55に嵌合され、かつキー56にて回転方向には係合し、軸方向に摺動自在となつている。軸53の他端部にはねじ57が設けてあり、このねじ57にギヤ58およびこれに固着されたゆるみ止め金具59が螺合されている。ギヤ58およびゆるみ止め金具59の端面はスラストベアリングを介してリング55およびブラケツト54の蓋体60に軸方向に支承されている。上記ギヤ58は正逆転するモータ61にて駆動されるギヤ62に噛合してある。またこのギヤ58にはポテンシヨメータ等の回転数検知装置63に結合した検知ギヤ64が噛合している。

また第5図において版胴3側の軸承部は軸21の軸承部と全く同一構造になつており、またこの版胴3は上記円筒15側と全く同じ構造により円周方向および軸方向に微動調整ができるようになつている。

上記構成において、駆動軸8を回転することによりベベルギヤ10、11を介して共通圧胴1が回転され、これによりブランケツト胴2が回転される。このブランケツト胴2の回転により版胴3の大径側はヘリカルギヤ13、14の噛合により回転駆動される。また版胴3の小径側に嵌合した円筒15は、ブランケツト胴2の他端側に設けた駆動側のヘリカルギヤ28、従動側のヘリカルギヤ33、ギヤカツプリング31、インターナルギヤ30、エキスターナルギヤ29を介して軸21と共に上記版胴3の大径側と同一回転数で回転駆動される。

このときにおいて、円筒15を版胴3に対して円周方向に微動調整する場合には回転スリーブ36を回転する。

すなわち、モータ49を駆動してギヤ49a、48、45を介して回転スリーブ36が回転されると、この回転スリーブ36はねじによりブラケツト39に対して軸方向に移動され、この回転スリーブ36に軸方向に結合された従動側のヘリカルギヤ33が軸方向に移動される。かくすると、このヘリカルギヤ33と駆動側のヘリカルギヤ28との噛合位置が軸方向にずれて、従動側のヘリカルギヤ33が駆動側に対してヘリカルアングルの働きにより相対的に円周方向に移動することになり、従つてこの従動側のヘリカルギヤ33と回転方向に係合した円筒15は版胴3に対して円周方向に相対移動されて、相対的に回転の位相が変更される。この移動方向はモータ49の回転方向によりきめられる。

一方円筒15を版胴3に対して軸方向に微動調整する場合には、軸53のねじ57に螺合したギア58をモータ61にて回転する。かくするとこのギヤ58は軸方向に係止されているから軸53がねじ57により軸方向に移動され、これにより、この軸53に軸方向に係合した軸21を介して円筒15が軸方向に移動される。

上記円周方向および軸方向の移動は版胴3の回転中において、互に無関係に行なわれる。

またそれぞれの移動量はポテンシヨメータ等の回転数検知装置50、63を介して規制する。

なおそれぞれの移動操作の駆動源はモータに限ることなく、手動ハンドルにてなつてもよい。また回転スリーブ36を回転させるギヤー45の軸46を駆動するにはギヤによることなくチエンにて連結してもよい。

第7図は共通圧胴を用いない単色機の場合も全く同様な機構により版胴3A、3A’、3B、3B’、3C、3C'……のそれぞれの軸方向の半分を個個別別に微動調整することができる。2A、2A’、2B、2B'……はブランケツト胴、7'は印刷用紙である。

本発明は以上のようになり、印刷機の版胴の軸方向の一側部を段状の小径にし、この小径部に、一端に軸を固着した円筒を版胴に対して回転および軸方向に摺動自在に嵌合し、この版胴と円筒の軸とをそれぞれフレームに対して軸方向に移動自在に支承すると共に、上記版胴と円筒の軸とを駆動側であるブランケツト胴に対してそれぞれ別々に、かつ駆動側のブランケツト胴の回転に対して版胴と円筒の軸のそれぞれの回転の位相を変更可能に連動連結し、この連動連結部に上記回転の位相を別個に変更するための機構を連係し、また上記版胴および円筒の軸とにこれらを別個に軸方向へ移動するための機構を連係して輪転印刷機における版胴装置を構成したから、版胴3および円筒の軸の回転位相を駆動側のブランケツト胴の回転に対してそれぞれ別々に変更することができ、まに版胴3および円筒の軸はそれぞれ別々に軸方向へ移動することができる。

従つて本発明によれば、軸方向左右に振分けた版装着部のそれぞれを版を取付けた状態で、しかも運転中に個々別々に円周方向および軸方向に微動調整を行なうことができ、これによつて極めて容易にかつ短時間内で版の見当合せを行なうことができる。

図面の簡単な説明

第1図はオフセツト多色刷輪転印刷機の印刷胴つ配列図、第2図はその駆動系統図、第3図は版の巻き込口の関係を示す版胴の断面図、第4図はその正面図、第5図は本発明の実施例を示す一部破断正面図、第6図は要部の構造説明図、第7図は単色刷機の4台連結の印刷胴の側面図である。

2はブランケツト胴、3は版胴、4、5はフレーム、15は円筒、21は軸。

第1図

<省略>

第2図

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第3図

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第4図

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第7図

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第5図

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第6図

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イ号物件目録

一 図面の説明

1 第1図は、イ号物件(輪転印刷機における版胴装置)を備えた印刷機における印刷胴の配列を示すものである。

1・・・・・・共通圧胴

2乃至2〓・・・ブランケット胴

3乃至3〓版胴

5・・・・・・フレーム

7・・・・・・印刷用紙

2 第2図は、イ号物件を備えた印刷機における印刷胴の駆動部を示すものである。

4・・・・・・フレーム

8・・・・・・駆動元軸

9・・・・・・軸受

10及び11・・・ベベルギヤ

12乃至14〓・・・ヘリカルギヤ

3 第3図は、イ号物件の版胴の小径部側の断面を示すものである。

152・・・・・・小径部

15'・・・・・・円筒

18及び19・・・版取付部

4 第4図は、イ号物件の版胴を軸と直角の方向から見たものであり、版の取付状況を示すものである。

16及び17・・・版

5 第5図は、イ号物件を版胴の軸方向に切った断面図である。

151・・・・・・大径部

153及び154・・・支持軸

154a・・・・・・穴

21・・・・・・軸

28・・・・・・ヘリカルギヤ

32・・・・・・軸受

39・・・・・・ピン

53・・・・・・ブラケット

100・・・・・・ローラーベアリング

143・・・・・・ニードルベアリング

901及び902・・・ブランケット胴の軸

903及び903'・・・軸方向調整機構

904及び904'・・・円周方向調整機構

6 第6図は、イ号物件の小径部側フレーム付近の拡大図である。

154b・・・・・・穴

54・・・・・・ニードルベアリング

二 イ号物件の構成

1 版胴3乃至3〓に装着された版の印刷図柄が、版胴3乃至3〓の駆動源であるブランケット胴2乃至2〓に転写された後、ブランケット胴2乃至2と圧胴1との間を通る印刷用紙に印刷される輪転印刷機の版胴装置において、版胴3乃至3〓は、大径部151を一方の版胴部とし、大径部151に段状に連続した小径部152に円周方向および軸方向に摺動可能に嵌合する円筒15'を他方の版胴部として、左右のフレーム4と5の間に配置されるよう構成し、大径部151および小径部152の各端部に、各端部に近接したフレーム4ないし5に至る支持軸153および154をそれぞれ設けている。

2 大径部側の支持軸153は、大径部151の端部に近接したフレーム4に円周方向および軸方向に移動可能に支承されると共に、更に該フレーム4の外へと突出し、小径部152の支持軸154は、小径部152の端部に近接したフレーム5の穴に差し入れられてローラーベアリング100に接し、ローラーベアリング100は部材32に接し部材32はフレーム5に接している。

3 円筒15'の端部に固着されたベアラにはピン39が固着されている。

4 ピン39は、小径部152および軸21の軸芯方向と直交するように穿った小径部の穴154bおよび軸21の穴に貫通している。

5 支持軸154および版胴小径部152の芯部に穿った穴154dにそれぞれ間隙を保って挿入された軸21は、前記ピン39に固着されている。

6 軸21の一側は版胴の穴154aに差し入れられていて、版胴の穴154aが接しているニードルベアリング143に接しているとともに、軸21の他の一側はフレーム5の穴を通ってフレーム5の外へ突出していて、フレーム5が接している部材32が固着されている部材53が接しているところのニードルベアリング54に接しており、軸21は円周方向および軸方向に移動可能である。

7 大径部側の支持軸153は、フレーム4の外側において駆動源であるブランケット胴2乃至2〓の軸901によって駆動されうるよう伝動連結されると共に、軸方向調整機構903および円周方向調整機構904に連絡し、かつ、円筒15'に固着した軸21は、フレーム5の外側において同じく駆動源であるブランケット胴2乃至2〓の軸902によって駆動されうるよう伝動連結されると共に、軸方向調整機構903'および円周方向調整機構904'に連絡し、一方の版胴部と他方の版胴部とが、それらの同一駆動源であるブランケット胴2乃至2〓に対して、それぞれ個別に回転位相と軸方向の位置を調整されるようにしたことを特徴とする輪転印刷機における版胴装置。

第1図

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第2図

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第3図

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第4図

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第5図

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第6図

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ロ号物件目録

一 図面の説明

1 第1図は、ロ号物件(輪転印刷機における版胴装置)を備えた印刷機における印刷胴の配列を示すものである。

1・・・・・・共通圧胴

2乃至2〓・・・ブランケット胴

3乃至3〓・・・版胴

5・・・・・・フレーム

7・・・・・・印刷用紙

2 第2図は、ロ号物件を備えた印刷機における印刷胴の駆動部を示すものである。

4・・・・・・フレーム

8・・・・・・駆動元軸

9・・・・・・軸受

10及び11・・・ベベルギヤ

12乃至14〓・・・ヘリカルギヤ

3 第3図は、ロ号物件の版胴の小径部側の断面を示すものである。

152・・・・・・小径部

15'・・・・・・円筒

18及び19・・・版取付部

4 第4図は、ロ号物件の版胴を軸と直角の方向から見たものであり、版の取付状況を示すものである。

16及び17・・・版

5 第5図は、ロ号物件を版胴の軸方向に切った断面図である。

151・・・・・・大径部

153及び154・・・支持軸

154a・・・・・・穴

21・・・・・・軸

28・・・・・・ヘリカルギヤ

32・・・・・・軸受

39・・・・・・ピン

53・・・・・・ブラケット

100・・・・・・ローラーベアリング

143・・・・・・ニードルベアリング

901及び902・・・ブランケット胴の軸

903及び903'・・・軸方向調整機構

904及び904'・・・円周方向調整機構

6 第6図は、ロ号物件の小径部側フレーム付近の拡大図である。

154b・・・・・・穴

54・・・・・・ニードルベアリング

二 ロ号物件の構成

1 版胴3乃至3〓に装着された版の印刷図柄が、版胴3乃至3〓の駆動源であるブランケット胴2乃至2〓に転写された後、ブランケット胴2乃至2〓と圧胴1との間を通る印刷用紙に印刷される輪転印刷機の版胴装置において、版胴3乃至3〓は、大径部151を一方の版胴部とし、大径部151に段状に連続した小径部152に円周方向および軸方向に摺動可能に嵌合する円筒151を他方の版胴部として、左右のフレーム4と5の間に配置されるよう構成し、大径部151および小径部152の各端部に、各端部に近接したフレーム4ないし5に至る支持軸153および154をそれぞれ設けている。

2 大径部側の支持軸153は、大径部151の端部に近接したフレーム4に円周方向および軸方向に移動可能に支承されると共に、更に該フレーム4の外へと突出し、小径部152の支持軸154は、小径部152の端部に近接したフレーム5の穴に差し入れられてローラーベアリング100に接し、ローラーベアリング100は部材32に接し、部材32はフレーム5に接している。

3 円筒15'の端部に固着されたピン受座にはピン39が固着されている。

4 ピン39は、支持軸154および軸21の軸芯方向と直交するように穿った支持軸の穴154bおよび軸21の穴に貫通している。

5 支持軸154および版胴小径部152の芯部に穿った穴154aにそれぞれ間隙を保って挿入された軸21は、前記ピン39に固着されている。

6 軸21の一側は版胴の穴154aに差し入れられていて、版胴の穴154aが接しているニードルベアリング143に接しているとともに、軸21の他の一側はフレーム5の穴を通ってフレーム5の外へ突出していて、フレーム5が接している部材32が固着されている部材53が接しているところのニードルベアリング54に接しており、軸21は円周方向および軸方向に移動可能である。

7 大径部側の支持軸153は、フレーム4の外側において駆動源であるブランケット胴2乃至2〓の軸901によって駆動されうるよう伝動連結されると共に、軸方向調整機構903および円周方向調整機構904に連絡し、かつ、円筒15'に固着した軸21は、フレーム5の外側において同じく駆動源であるブランケット胴2乃至2〓の軸902によって駆動されうるよう伝動連結されると共に、軸方向調整機構903'および円周方向調整機構904'に連絡し、一方の版胴部と他方の版胴部とが、それらの同一駆動源であるブランケット胴2乃至2〓に対して、それぞれ個別に回転位相と軸方向の位置を調整されるようにしたことを特徴とする輪転印刷機における版胴装置。

第1図

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第2図

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第3図

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第4図

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第5図

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第6図

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昭和61年補正後の特許請求の範囲

印刷機の版胴の軸方向の一側部を段状の小径にし、この小径部に、一端に軸を固着した円筒を版胴に対して常時回転および軸方向に摺動自在に嵌合し、この版胴の軸と円筒の軸とをそれぞれフレームに対して軸方向に移動自在に支承すると共に、前記版胴の軸と円筒の軸とを駆動側であるブランケツト胴に対してそれぞれ別別に、かつ駆動側のブランケツト胴の回転に対して版胴の軸と円筒の軸のそれぞれの回転の位相を変更可能に連動連結し、この連動連結部に上記回転の位相を別個に変更するための機構を連係し、また前記版胴の軸および円筒の軸とにこれらを別個に軸方向へ移動するための機構を連係してなることを特徴とする輪転印刷機における版胴装置。

第1図

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第2図

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第3図

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第4図

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特許法第64条の規定による補正の掲載

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特許公報

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